桜の木の下で出会った女性は、天国への行き方がわからない幽霊さんでした

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 数週間後。  彼女は退院した。  多くの家族や知人に歓迎されながら病院を後にした。  そして今、彼女は僕の隣にいる。  生身の身体で念願の桜餅アイスを食べている。 「うーん、美味しい! やっぱり生きてるって最高ー!」 「うん、本当にこの桜餅アイスは何度食べても美味しいですね」  期間限定のはずなのに、いまだに売ってる謎の桜餅アイス。  でも彼女が美味しそうに食べれる姿を見れてよかった。  幸せそうな顔を見せる彼女に僕の顔もほころぶ。 「あの、これからどうしましょう?」  桜餅アイスを食べながら尋ねる幽霊さん。いや、元幽霊さん。 「そうですねー」と僕は腕を組んだ。  いつもは僕が聞いて彼女の行きたかった場所を巡っていたから、なんだか変な感じだった。 「映画でも見に行きますか?」 「お、映画ですか! いいですね、賛成ー!」  そう言って彼女が僕の背中に飛び乗った。 「うごっ!」 「あ、ごめんなさい! 幽霊だった時の癖で……」  パッと飛び降りようとするのを腕を回して止める。 「いや、いいですよ。このまま行きましょう」 「大丈夫? 重くない?」 「全然重くないです」  幽霊ではない彼女の確かな重さ。  僕にとってこれ以上の幸せはない。 「でも映画館はちゃんと席で観てくださいね」 「もちろん。あ! 私一度言って見たかったセリフがあるんです!」 「へえ。どんな?」  尋ねると彼女は耳元に顔を近づけてきて、そっとつぶやいた。 「私、あなたとは死ぬ時までずーっと一緒にいたいです」  ボッと顔が赤くなるのが自分でもわかった。  以前見たあの映画のセリフ。  あの時はただのホラーだったけど、今は違う。 「はい、僕もあなたとは死ぬ時までずーっと一緒にいたいです」  僕の言葉に彼女は腕を回してギュッと抱き着いて来る。  彼女の温もりが、吐息が背中越しに感じられた。 「……嬉しいです。よろしくお願いします」 「はい、こちらこそよろしくお願いします」  桜並木の道を一歩踏み出す。  生きている彼女を背負って歩くこの道は、いつも以上に綺麗だと思った。
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