桜の木の下で出会った女性は、天国への行き方がわからない幽霊さんでした

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 ポカンという顔にレベルがあるとするならば、今の僕は「MAXポカン」に違いない。  そして今しがた「少し頭のおかしな人」に格下げされた彼女は一気に「ヤバいくらい頭のおかしな人」レベルに昇格した。  いきなり何を言ってるんだ、この人。 「信じられませんか?」 「信じられませんも何も、いきなり幽霊なんですって言われても……」 「見てください、ほら」  女性はそう言って近くの桜の木に腕を突っ込んだ。  それは突っ込んだという表現が正しいほど、腕がごっそりと木の中にめり込んでいた。 「うごほおぉっ!!」  思わず叫んでしまった。  女性は腕を引き抜くと幽霊とは思えない笑顔で言った。 「ね? 幽霊でしょ?」 「さよならッ!」  慌てて逃げ出そうとすると、彼女は一瞬にして僕の目の前に立ちふさがった。 「待って待って! なんで逃げるの!?」 「ひいっ!」 「怖がらないでください。ちょっと道を尋ねたいだけなんですから!」 「勘弁してください! 僕、お化けとか幽霊とか苦手なんです!」 「あ、気が合いますね、私もです」  ニッコリ笑う彼女。もはやツッコむ気力もない。 「実は私、数週間前にトラックに轢かれてしまって……。気が付いたらここに立っていたんです」 「そ、そうなんですか……」 「それ以来、ずっと道行く人に天国への行き方を尋ねてたんですけど誰も気づいてくれなくて……」 「そ、そうなんですか……」 「ようやく、あなたに気づいてもらえたんです」 「ソ、ソウナンデスカ……」  ヤバい、気づかなきゃよかった……。 「それで、天国ってどうやったら行けるかわかりますか?」 「いや、わかりませんけど……」 「ですよねー」  分かり切ってたことだろうに、テへと笑う仕草が少し悲しく見えた。 「すいません、お力になれなくて」 「いえ、とんでもありません。こちらこそ驚かせてしまってすいませんでした」  ペコペコと頭を下げる彼女。  その姿に幽霊っぽさが全然感じられず、僕は徐々に落ち着きを取り戻し始めた。  思えばこの女性、こうやってずっと誰かに尋ね続けていたのだろう。  そう思うとちょっぴり可哀想に思えてきた。 「天国への行き方、見つかるといいですね」 「はい、ありがとうございます」  ペコペコと頭を下げるその幽霊。  これはいわゆる地縛霊というやつになるのだろうか。 「僕のほうでも調べておきます。何かわかったらお伝えしますね」 「はい! お願いします!」  僕らはそう言って別れた。
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