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結論から言うと、アイスではなかった。
わかってはいたけど、これではなかった。
というより、桜餅アイスを買ったはいいがいざ差し出してみたら
「これ、どうやって食べたらいいんでしょう」
と言われたのだ。
思わず「くそう!」と叫んでしまった。
「うふふ、すり抜けちゃうから食べられませんでしたね」
「はあ。せっかく買ったのに」
もったいないから代わりに僕が食べた。
まろやかな甘さとほんのりとした苦みが口いっぱいに広がる。
「どうですか? 美味しいですか?」
「すごく美味しいです。食べたことない味です」
「へえー。例えばどんな?」
「例えば……桜餅を食べてるような……」
「ほうほう、桜餅を食べてるような。って、それ桜餅アイスですしー!」
いいノリでツッコまれた。
思わず笑みがこぼれる。
「ふふ」
「笑わないでくださいよー。ううう~。生まれ変わったら心ゆくまで食べてやるんだから!」
心ゆくまで食べるもなにも、期間限定ってさっき言ってませんでしたっけ?
イマイチ彼女の言葉が本音なのか冗談なのかわからない。
それよりも結局振り出しに戻ってしまった。
彼女が成仏できない理由、早くそれを突き止めないと。
「あの、幽霊さん。他にやり残したことってありませんか?」
「ん~、やり残したこと……」
「できれば成仏できそうなものがいいんですけど」
「あ! そうだ!」
「なんです?」
「そういえば映画が見たかったです! この春上映の!」
また成仏とは無関係そうなのが出てきた。
「え、映画って……どんな?」
「えーと、なんだったかなぁー。たぶん映画館に行けばわかると思います」
「わかりました。じゃあ今から観に行きますか。っていうか、ここから離れられるんですか?」
「それならたぶん平気だと思います」
言うなり彼女はふわりと浮き上がり、僕の背後に回った。
瞬間、ズシリと肩が重くなる。
「な、なんか体が重くなったんですけど」
「ちょうど今、あなたに憑りつきました」
「憑りつきましたって……」
横を向くと、ちょうど肩のあたりに彼女の顔があった。
「ふおぉっ!?」
思わず叫んでしまった。
まわりに人がいなくてよかった。
「な、なにしてるんですか!?」
「だってこうしないと移動できないんですもの」
「移動って! 僕に憑りつけば移動できるんですか?」
「はい、そうです。っていっても私も初めてなんですけどね! 実践してみましたが、うまくいきました」
僕も幽霊に憑りつかれたの初めてです。
「ああー、気持ちいい! おんぶされてるみたいですっごく気持ちいいです!」
「ふ、ふふ……。そーっすか、気持ちいいっスか……」
そんなこんなで、僕は幽霊さんを背負って(?)映画館に向かった。
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