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そんな生活が数週間続いたある日のこと。
朝のニュースを見ながらコーヒーを飲んでいると、見慣れた景色が画面に飛び込んできた。
幽霊さんがいるあの桜並木の公園がテレビに映し出されていた。
『速報です。先月4日、〇〇県の路上で女性をひき逃げした男が逮捕されました』
その言葉に僕は思わず飲んでいたコーヒーをぶちまけてしまった。
「な、な、な……」
身体がぶるぶる震える。
逮捕されました?
捕まってなかったのか?
『男は当時、酒を飲んだ状態でトラックを運転し、柏木公園にいた女性を轢いて逃げた疑いがもたれています』
まさに彼女がいるあの場所だった。
僕は食い入るように画面を見つめた。
『これは先月4日、横断歩道を渡っていた女性がはねられた事件で、トラックを運転していた男はそのまま逃走。行方をくらませていました。警察の調べに男は容疑を認めており……』
なんてことだ。
まさか彼女をはねた運転手が捕まってなかったなんて。
そっちの線はまったく考えてなかった。
「そうか。成仏できなかったのは轢いた運転手が逮捕されてなかったからか……」
だとしたら、これで彼女の未練はなくなる。
無事に犯人は捕まったのだから。
でも嬉しいと同時に寂しい気持ちが沸き上がった。
彼女には成仏して欲しい、しかし別れたくはない。
複雑な感情が入り混じった。
これは報告すべきだろうか。
それとも黙っていたほうがいいのか。
本心は黙っていたかった。
でも、それではいつまでたっても彼女は成仏できない。そしてそれは彼女にとってもよくない。
やっぱり伝えるべきだろう。
僕はすぐさま出かけようとリモコンに手を伸ばし、そして、はたと止まった。
『なお、ひき逃げされた女性は今もなお意識不明の重体で、昏睡状態が続いています』
僕はポカンとなった。
ポカンのレベルがあれば「MAXポカン」だ。
意識不明の重体?
死亡ではなく重体?
その瞬間、僕はすべてを悟った。
そうか!
だからあの幽霊さん、天国へ行けなかったんだ!
天国への行き方がわからないんじゃなくて、天国へ行くには早すぎたんだ!
思わず僕は家を飛び出すと柏木公園へ向かって駆け出していた。
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