桜の木の下で出会った女性は、天国への行き方がわからない幽霊さんでした

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「幽霊さん!」 「あ、おはようございます」  いつもの場所でいつものように彼女は立っていた。  いつも見ている光景なのに、今日はなんだか一段と美しく見えた。  僕の心がそう見せてるのか、それとも春の陽気がそう見せてるのか。  僕は「幽霊さん!」と叫ぶと思わず抱き着いた。  ……つもりだったが、彼女の身体をすり抜けて桜の木に激突した。 「あだっ!」 「きゃっ! 大丈夫ですか!?」  慌てた表情の彼女。  でも今の僕は嬉しくて痛さも感じない。 「だ、大丈夫です……。あたた……」  そうでもなかった。 「大変、おでこにこぶが……」 「僕のことはいいんです! それよりも聞いてください! あなた、まだ死んでないんです!」 「え?」 「さっき、テレビのニュースで言ってたんです! あなたを轢いた運転手が逮捕されて、テレビにここが映ってて、運転手は容疑を認めてて……」  興奮しすぎて支離滅裂だ。  自分で何を言ってるのかわからなくなってくる。 「落ち着いてください。何があったんですか?」 「とにかくあなたは死んでなんかいないんです! 意識不明で入院中なんです!」  それはそれで大変なことだけど、死亡よりははるかにいい。  なんたって、生きているんだから。 「意識不明?」 「はい! だからまだ望みはあるんです!」 「じゃあ、今の私は……」 「生霊なのか幽体離脱の状態なのか僕にもわかりませんけど、とりあえず病院に行きましょう! あなたの本体が眠っているかもしれません!」 「は、はい!」  ズシッと身体が重くなった。  彼女が僕に憑りついた証だ。  でも僕にとって今は嬉しい重さだった。 「行きますよ!」 「お願いします」  そう言って近くの大学病院に向かって僕は走り出した。
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