波久礼銀太

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銀太の事務所に田村という男がやって来たのが、リナ達に神社で接触する3日程前だった。 1人の男が事務所を訪ねて来た。 自分は田村と言うと、男は名乗った。 吉川リナという女子大生から、ある物を取り返してほしい。ある場所から盗まれた物を持っていると、リナの写真出して言われた。 田村は名字しかな名乗らなかったが、懐から白い封筒を出して、応接スペースのローテーブルの上に置いた。 中を見るまでもなく札束だと分かった。厚みから50万以上はあるだろう。 「これが報酬だ。受けてくれたらこれをやる。必要経費だ。好きに使ってくれて良いし返さなくて良い。50万ある。成功したらもう50払う」 「ある場所から、ある物じゃ、何を取り返せば良いか分からないし。俺の仕事じゃないです。俺の仕事分かってます? 探偵でも怪異探偵ですし、実質ただのフリーライターですよ?」 「なら、この報酬はデカイだろ? 深くは言えないが、半年前にお前らが盗んだ物だと言えば分かる!」 「だから、それは俺の仕事じゃないですよ。と、言いたい所ですが——。この子、獄の墓に行ったと書き込んだ子ですよね? それと関係あります?」 「——ッ!?」 今まで喰って掛かる様に銀太に話していたのに田村は、急に押し黙った。 やはり何か関係あるようだ。 「当然、怪異が俺の飯の種なんで、騒ぎになった時に調べましたよ? ただ接触はしませんでしたけどね。学生だし変に接触すると問題になるんで。別に記事にするにしても、正直本人が表に出たがらないなら、でっち上げでも良いですからね。自称リナみたいな子はいくらでも居ましたし。そういう子の話を本人談みたいにしてしまえば、もし偽物とバレても、SNSの名前はニックネームなのかも知れないし、こっちは騙されただけで済みます」 「悪徳だな? こんな物でも、さすがマスゴミって所か!?」 「俺は別にジャーナリストじゃ無いですからね。あくまでエンターテインメントですよ。僅かに含む事実は、オカルトに取ってスパイスみたいな物です。ただ彼女は本物のリナですよ。事故の被害者を調べるのはそんなに難しくない。色んなつてがあるんで、そこから彼らの友人に聞き込みすれば分かります。被害者達の中で、彼女が居たのが永浜裕太と内田光輝の2人で、内田光輝の彼女がリナでしたよ。記事にしなかったのは、先に言った通り誰でもでっち上げられるんで、記事に価値が無いです」 「意味が分からないな? でっちあげでいいんだろ? 金になるだろ?」 「俺に取ってですよ。記事にしなくとも俺は真実を知りたいんです。最初から作り上げた嘘じゃ、面白く無いじゃ無いですか?」 「なるほど。確かに仕事には情熱が必要だな。お前に能力があるのは分かったが。——ただもう。良い」 「どうしてですか?」 「どうしてって、受けないのだろ? なら話す必要も無い」 「受けましょうか?」 「もう良い。帰る。今日のことは忘れろ」 と、田村は半分怒ったように、ぶっきら棒に言って、白い封筒から1万円出して置いていった。 これが依頼相談に来た田村という男の話である。 たったこれだけの出来事だが、銀太には田村という男が気になった。
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