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そして時間は流れて、彩と2回目の接触をした事務所の応接スペースに戻る——。
「つまり、この獄の墓の古地図は偽物なんですか?」
「まあ、そうなんですけどね。獄の墓の文字も違うから、違う人間が作ったんだろうし。手の込んだ悪戯といえばそうかも知れない」
「そうかもしれない?」
「まあ、これに継いては俺が調べますよ? それより一回見せて貰っても?」
と銀太は古地図と一緒に持って来たあのボロボロのカメラを彩に向けた。
「写真? またフィルム入ってないんですか?」
黒いカメラの額? にあたる分にある白い英文字が目立つ『Nikomat』と彫られている。そういう名前のカメラなのだろう。
「ええ、今は。信じる信じないはどちらでも良いのですが、実はこのカメラは壊れて居て、霊を感知するとミラーが降りて撮れる状態になります」
「霊を?」
「特殊なフィルムを入れると、捉える事も出来ますよ? ちなみに今もミラーがあなたに会ってから下りっぱなしです」
「つまり私に霊が?」
「はい」
「私が見ても?」
「ニコマートで?」
「はい。そのカメラで?」
「良いですけど、俺以外は見えないですよ? そもそも、カメラの力も発動しないです。ミラーがまた戻って、ただの壊れたカメラになる。しかも、俺も見えるのは見えない左目でだけです。視力のある右目では見えません」
「左目、見えないんですか!?」
「ええ」
「バイク、運転して大丈夫なんですか!?」
「今の所は、至っても問題ないですよ。じゃあ、見ますね?」
と銀太はニコマートを彩に向けて、ファインダーを覗いた。
「波久礼さんなんか見えますか?」
「あっ、銀太で良いですよ?」
「え? はっ、はあ。銀太さん見えますか?」
「見えました」
「えっ!?」
「優しそうな。お婆さん」
「お婆さん?」
「小さくで、ショートカットの白髪。ニコニコ笑ってて、赤い縁のメガネを掛けてる。多分あなたを守ってる。悪い霊じゃないけど、ちょっと普通の霊と違う。オレンジに輝いてる。こういうのは生き霊かも? 心当たり無いですか?」
「あっ、お婆ちゃんだ!?」
「お婆ちゃん?」
「私のお婆ちゃんです! 今、入院してます」
「なるほどね。きっと、そのお婆さんが無意識にあなたを守ってくれてるんでしょう。この前は、別の力が邪魔してて見えなかった。今は見える」
「お婆ちゃんが——。そうか、あの時部屋で感じた匂いはやっぱり、お婆ちゃんだったのか……。」
「憑いているのはリナさんの方ですね。あの時はまったく見えなかったけど、あなたの話を聞くと既にその時にはお婆さんは守ってくれてたようだし。あの時見えなかったのは、その力が邪魔したから」
「あの? 生き霊を捕まえたらどうなるんですか?」
「やった事ないですけど、多分払う事は出来るでしょうね。でもお婆ちゃん本人はなんにもなりません。生き霊を除霊して、飛ばしてた相手が死んだなんて聞いた事無いですからね。呪いは神とか悪魔とか言われる、第三者的な物を挟むから返されると自分に返りますけど、生き霊ってのはそういう物じゃ無い。思いが飽和状態を超えた時に出てしまうものです。それを捕まえて消滅させた所で、トカゲの尻尾みたいなもんですからね。生き霊って不思議で、本人であるけど本人ではないんです。ドッペルゲンガーとかと近いのかなぁ?」
「なるほど。でもなんで、あの時にリナに憑いてた霊を捕まえてくれなかったんですか? あの時に捕まえてくれてれば。お婆ちゃんの生き霊は払っても問題なかった訳だし。まああの時は分からなくとも。守護霊だとも分からなかった訳だし。特別なフィルム、持ってくるの忘れたんですか?」
「確かにフィルムは入ってませんでしたが、持ってはいました」
「じゃあどうして?」
「ミラーは降りたけど、言ったように霊は見えなかったんですよ? 見えないとどうしようもないです。見える状態でないと、フィルムに焼き付けられないんです。霊がニコマートの前に姿を現した時を狙うしかないんです」
「そうなんですか……。あの? 失礼ですけど、その目は昔から?」
「いえ、ちょっとした事故で。医者によると医学的にはもう治っているので、精神的な物ではないか? という話ですが、力の覚醒が失明の直ぐ後なので力を得る代わりに、視力を失ったのかもしれません。よくある等価交換ですよ。視力と霊能力が入れ替わったんです。ニコマート無しでは発動しない中途半端な力ですが」
「……なるほど。」
「取り合えず、今日は家まで送ります」
「あのリナは?」
「見つけますよ。でもあなは、これ以上は関わらない方が良いです。変に関わるとあなたも巻き込まれる」
「あの!」
「なんですか? 他にまだ何か?」
「言い辛いんですけど! 色々ご相談に乗って貰って申し訳ないんですが、学生なんでお金があまり——」
「ああ、要らないですよ。全部終わった後で、嘘っぱちの記事を書かせて下さい。勿論、お二人の素性は伏せます。」
「良いですけど、嘘の記事で良いんですか!?」
「時にジャーナリスト的な紹介もされますが、別にジャーナリズムじゃないですからね。あくまで記事はエンターテインメントです。オカルトで本当の事書いても仕方ないでしょ?」
「ええ? そうなんですか? なんか、インチキですね? まあ、私は別に書かれるのは構わないですけど。とにかく、リナをお願いします」
「まあ任せて下さい」
「波久礼さんてお若く見えるけど、お幾つなんですか?」
「20ですけど?」
「ええ!? 同い年なんですか?」
「ダメですか?」
「そんな事は無いですけど……。」
と訝しげに見る彩に銀太は、ただ苦笑いをしていた。
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