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夢を見ていた。
けれど僕はそれを夢とは捉えず、むしろデジャヴのような感覚で見る。
その時、僕はもうほとんど覚醒しているといっていい。次にどんなヴィジョンが現れ、自分がどんな気持ちになるのかまで、はっきりと意識の再現をすることが出来た。
そのひとの後ろ姿は、何故かいつも冬の太陽のイメージを伴って思い出された。
白く煙った物憂げな光の微粒子が、中心にある太陽の輪郭をぼかしてしまい、その存在をひどく遠いもののように感じさせる。
太陽なのに、そこには冷たさしか想像できない。そのくせやけに眩しく、希望と絶望をない交ぜにしたみたいな、やるせない悲しみを覚えるのだ。
そんな太陽のイメージに溶け込んでゆくように、そのひとは背を向け、歩いてゆく。
細いが、薄い筋肉が張りつめたような感じの身体が、ぴったりとした黒いワンピースのドレスに包まれている。
その歩き方はどこか奇形な感じを僕に与えた。片足が裸足なのだ。もう片方には赤いヒールをはいている。
その姿には洗練さの欠片もなく、むしろ無様であり、滑稽ですらあった。
けれどその滑稽さゆえに、僕はそのひとの後ろ姿に言い様のない悲しさを覚える。
そのひとは多分、僕を置いていった母だ。顔もほとんど思い出せないのに、彼女の悲しみだけは、何故か手に取るように判った。それは他ならぬ、僕自身の悲しみでもあったのかもしれない。
左右にゆらりゆらりと揺れながら、放心したような足取りで、そのひとは去って行く。
『あんたの好きなお菓子を買ってくるからね』
いい子で待ってるんだよ。
夢はいつもそこで唐突に終わる。
僕はもう一度その夢の中に戻りたくて急いで目を閉じる。けれどその願いが叶ったことは一度もなかった。
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