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マンションを出てエントランスも抜ける。すっかり暗くなった空には星が輝いていた。冷え切った風が頬を刺して痛みを覚える。吐き出した息が白く上るのを眺めながら、まあ、相手は高橋さんだけど、大和と鉢合わせたときのことを考えれば、一人で帰宅じゃないのはよかったと思っておこう、と考えた。
玄関の前に二人立ってタクシーを待っていた。
「てゆうか、やっと分かりました。そりゃ勘違いしますよねー」
突然主語もなく話し出した。きょとん、としてそちらを見る。
「佐伯さん、前成瀬さんのこと好きっぽい雰囲気出してたから。二人って全然接点ないはずなのに、成瀬さんも妙に佐伯さんを庇うようなこと言うなーって不思議に思ってたんです。そういう関係だったんですねー」
「い、いや、私は別に成瀬さんのことを」
「勘違いしちゃいますよねえそりゃ。ご飯作ってほしい、なんて言われたら、どんだけ釣り合ってないって分かってても期待するの分かります!」
いちいち棘をつけなければ話せない病気なのだろうか?
それでも、その言葉が図星だと思って何も言い返せなかった。釣り合ってないって分かってたけど、好きになってしまった。
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