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目的の階に到着して降りる。のそのそと遅い足で部屋に向かった。そして今更緊張が増してくる。一体どういう風に切り出そうか、今から脳内シミュレーションを始めよう。しまったなあ、あまりこういう経験は豊富ではないのだ。
盛大なため息をつきながら、見慣れたドアの前にたどり着いた。私は鞄の中を漁り鍵を探す。あれ、さっきしっかりしまったはずなんだけど、どこに行ったっけ。
ガサゴソと鞄の中をひっくり返しているとき、突然背中から声がした。
「おかえり」
びくっと体が跳ねる。驚きで振り返ると、成瀬さんがこちらに向かって歩いてくるところだった。
……え! 思ったより早いんですけど。まだシミュレーションしてないんですけど!
慌てふためきながら混乱していると、手から鞄を落としそうになる。成瀬さんがタイミングよくそれをキャッチしてくれた。
「おっと、また落とすとこだったよ」
「す、すみません!」
「はい」
「ありがとうございます、早かったですね成瀬さん」
「うん、急ぐねって言ったでしょ」
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