私たちの決意

27/64
前へ
/279ページ
次へ
 そう笑いかけてくれる成瀬さんは、いつも通りに見えた。ここ最近避けられていたとは思えないほど、普通に話してくれてる。でもそのいつも通りが、私にとっては辛くて悲しかった。  笑顔を返せない。  そんな私を見て、成瀬さんは困ったように視線を落とした。 「えーと、ご飯ありがとう」 「……いいえ」 「なかなか家にいなくてごめん。色々……考えてて」  バツが悪そうに言う。そして話題を変えるように、彼はポケットを漁った。 「とりあえず入ろうか、寒いし。中でゆっくり話は聞くよ」  取り出したそれを鍵穴に差し込んだ。私は返事すら返せないまま、ただ俯いて立っている。慣れ親しんだこのマンション、思い出がありすぎて辛い。  多分、入るのは今日が最後になる。でも、言うんだ。ちゃんときっぱり終わらせなきゃいけないんだ。私は心の中で強く決意する。  カチャリと鍵が開く音がした。そのまま彼が扉を開けた瞬間、この場にいるはずのない高い声が響きわたった。 「えー? 佐伯さんー??」  二人ともびくっと体を固まらせた。
/279ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5757人が本棚に入れています
本棚に追加