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わざとらしく頬を膨らませて高橋さんは言う。私は何も口を挟めない。一体どう話せばいいのか全然頭が回らないのだ。変な言い訳をしたら、明日会社中に言い振り回されていそうだし、平穏に終わるように成瀬さんが頑張ってくれてるのに台無しにしかねない。
成瀬さんは少し間を置いて視線を落とした。長いまつ毛がちらりと揺れる。そして声色を変えないまま答えた。
「うん、それはその通りだと思う。佐伯さんには迷惑掛けてるから」
「そうですよーもう佐伯さんにお願いするのはこれで最後にしてもらったどうですか?」
「それもそうだね。甘えすぎてたかも、ごめんね佐伯さん」
成瀬さんが私に向いて言う。声を出そうとして、何も出なかった。掠れた空気がただ喉から漏れただけ。きっとこの関係は終わりなんだろうと思っていたけど、その終わりの形はこんなものじゃないはずだった。
すかさず、高橋さんが笑顔で割り込んだ。
「成瀬さん! 私がやりますよー!」
ぎょっとした顔で見てしまった。彼女はニコニコと花のような笑顔で成瀬さんを見ている。私の存在なんて眼中にないようだ。成瀬さんも少し目を丸くしていた。
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