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諦めて頷いた。
「じゃあ、成瀬さん、おやすみなさい」
「うん、ありがとう」
名残惜しさを感じながら、私たちは離れた。タイミングを改める必要があるみたいだ。仕方ない、またラインで日程を調整しよう。
私と高橋さんが並んで歩き出す。腕はがっちりつかまれたままだ。一度振り返ると、成瀬さんがこちらをじっと見送っていた。高橋さんもそれに気づき、笑顔で手を振る。
二人でエレベーターに乗り込んだ。そこでやっと腕が解放される。扉が閉まって下降しだすと、少しの間沈黙が流れた。
私は気まずさに耐えられず、なるべく普段通りを装って話しかけてみる。
「あ、この辺はあまりタクシー通らないから、電話で呼んでみるね」
「お願いしまーす」
さっきより幾分か低い声で言う。うーん、私が古い人間なのかな、先輩にそう言われたら『自分が掛けますよ』って私なら言うんだけど……まあいいか。
私はなるべくゆっくりした動作で電話を掛ける。少しでも高橋さんと二人で話す時間を減らしたいと思ったのだ。生憎瞬時に電話は繋がり、一台タクシーを頼んだ。すぐに来れるようだったので、そこは幸いだった。
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