悲しみも吹っ飛ぶ

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 その肩を揺する。着ている服はいたって普通の黒いスウェットだった。彼はううん、と声を漏らす。とりあえず生きてることにホッとした。  成瀬さんは顔だけを起こした。前髪が寝癖でピンと跳ねている。端正な顔立ちをした彼は、私を見て不思議そうに首を傾げる。 「佐伯さん? あれ、実家に帰省するんじゃないの?」 「もう帰ってきましたよ!」 「え? そんなに経った?」 「成瀬さん、最後にご飯食べたのいつですか。何食べましたか!?」  私が尋ねると、彼はその体制のまままた首を首を傾げる。なんとも首を痛めそうな形だ。 「ええと……」 「…………」 「今日……は寝てたかな……」 「…………」 「昨日……はテレビ見てたかな……」 「…………」 「一昨日……あ、確か朝はカロリーメイト食べて、夜は佐伯さんが冷凍庫に残しておいてくれたものをチンして」 「食べて!! 今すぐ食べて!!」  私は右手にぶら下げていた紙袋を差し出した。彼はのそっと起き上がり、ソファに座ると頭を掻いた。どうでもいいシーンなのに、ドラマの中のような絵になるのは、このきりっとした顔立ちのおかげだろう。
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