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ある朝、砂浜を散歩していたら不思議なものを見つけた。野球ボールくらいの大きさの金属製の球だ。見つけた時は焼け焦げて真っ黒に煤けていたけれど、海水で洗ったらピカピカに光った。手に持つと羽根のように軽く、それでいて鋼鉄のように硬いから不思議だ。
もしかしたらこれは宇宙の金属では?と何となく思った。そういえば昨晩、各地で巨大な火球が目撃され海に落下したとニュースが報じていた。
振ってみると、中でカサカサと紙のような軽い音がする。何が入っているんだろう? 手紙だろうか?ただそれを見てみたいという軽い気持から、僕はその球を家に持ち帰った。
すぐに僕は自宅の車庫を改装した作業場に向かった。そこでいつもレトロな家電製品――たとえば家具調テレビや真空管ラジオのようなものを復元、修理するのをサイドワークとしている。だから大抵の工具はそこにあった。とにかく球を割ってみよう。
それは驚くほど頑丈な球だった。ハンマーで思いきり叩けば手の骨が痺れ、刃物を当ててみれば刃がぼろぼろと欠けた。研磨機にかければ摩擦で火花が飛び、後に鑢面の方がつるつるになってしまった。それでも球には傷ひとつ付いていない。やがて僕は疲れ果て、作業を中断せざるを得なかった。
僕は床の上に大の字になって、ぼんやりと窓から空を見上げた。この地表から宇宙空間までの距離、カーマン・ライン。それはおよそ高度100キロメートルを意味している。100キロか・・・だいたい東京駅から富士山頂までの距離だ。 そんな高さから音速で落下しても、この球は燃え尽きもせず壊れもしなかったんだ。それを僕が割ろうなんて、最初から無理な話だったのかもしれないな・・・。
開け放った窓から吹き込んだ風が床で球を転がして、耳元にあの音が鳴った。カサカサカサ・・・。それはまるで『もうあきらめてしまったの?』と僕に囁いているようだ。
その時、僕のこれまでの人生が走馬灯のように頭の中に流れた。少年時代に夢見ていたサッカー選手をあきらめ、思春期に初恋の女の子をあきらめ、大学受験でも目標の第一志望をあきらめ・・・思えば挫折とあきらめの連続だ。だけど断じて、僕はあきらめるのが好きな訳じゃない。本当は気の済むまで、もっともっと頑張りたかったんだ。
僕は床からガバッと体を起こした。あきらめたくない!だってもしかしたらこの球には、宇宙からの重大なメッセージが入っているのかもしれないじゃないか。
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