不思議な球体のはなし

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 それ以来、僕は全ての時間とお金と体力をこの球の研究につぎ込んだ。そしてついに、球の表面には目に見えない細い継ぎ目が存在していることを顕微鏡で発見した。ようするにこの球は、二つの半球が組み合わさって出来たカプセルだったのだ。  僕は有頂天になった。その継ぎ目に集中して力を加えれば、すぐにもこの球は割れるだろうと思ったから。だけど甘かった。継ぎ目は完全に癒着しているみたいで、ほんのわずかにも広がることはなかった。切っても!叩いても!バーナーで焼いても!  ・・・だめだ。もう万策尽き果てた。思えばこの球を拾ってから、そろそろ一年が過ぎようとしている。もうこれ以上の時間と労力を無駄にはできないし、ここら辺がそろそろ潮時なのだろうか・・・。そう思っていたら突然、お腹がグー!と鳴った。  そういえば丸一日、食事すら忘れていた。とりあえずなにか食べなくては。僕はカウンター上の電子レンジで冷凍食品を温めるために、球を何気なく横に置いていた。そしてスイッチを入れたその瞬間、それは起こった。ブブブブ!と球が激しく振動を始めているではないか!もしかして電子レンジの電波に反応しているのだろうか?  迷うことなく僕は球を電子レンジの中に放り込み、そのまま作動させた。するとどうだろう、球は一瞬ゴムのようにグニャリと歪み、みるみるうちに真ん中から亀裂が現れ、それがぐんぐん円を一周してパカ!と音をたてた。 「そうか・・・そうだったのか!一種の形状記憶合金で出来ていたんだな・・・!」  その瞬間、目に勝手に涙がにじんだ。そしてだんだんと実感が湧くにつれて身体が震えだして、それはしばらく静まりそうにもなかった。ついに、ついに僕は一つの事をあきらめずに最後までやり遂げたんだ!  球の中は空洞になっていて、そこから綺麗に折りたたまれた紙片がのぞいている。そこには何が書かれているのだろう?全宇宙の危機を知らせる警告だろうか?それとも地球上から戦争や疫病をなくすための助言?僕は震える指でその紙片をつかみ、そっと開いてみた。  その紙には、たった一つの文言が黒字で大きく書かれていた。その書体は見たこともない流れるような象形文字で。でも、もはやそれを解読してまで読みたいという気持は僕に起こらない。なぜなら球の中にはポケットティッシュが一個、一緒に入っていたからだ。 「あ、これハズレだな、たぶん・・・」  
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