白い忘れ物

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白い忘れ物

風に遊ばれている枯れ葉を笑っていたら、 いつものバス停に着いていた。 「冷たっ…」 2月の気温で冷え切ったベンチに、 歯を食いしばりながら座る。 ふと横を見ると、小さな人形のようなものが置いてあることに気づいた。 大きな顔の棒人間のような、白い人形。 「だれかの忘れ物かな?」 恐怖心と好奇心が織り混ざった。 「うーん、好奇心の勝ち」 人形を手に取ることに決めた。 「あれっ?」 人形が、取れない。 「えっ」 完全にベンチにくっついている。 「んっ…」 思いっきり引っ張ると、 ベンチが軽く動いた。 なかなかの粘着力だ。 もう一度、力を振り絞って人形を引っ張る。 「あっ…!」 すぽん、という感触と共に、 その人形の頭が抜けた。 「あらら」 丸っこい頭を手の上でコロコロした後、 元いた場所にそっと戻した。 "ビューッ" 風が吹いて、頭がぽろん、と落ちた。 「もういいやっ」 ソフト部エースのプライドを発動させて、人形の頭を、遠くの茂みにぶん投げた。 指先に、びちっ、という感触。 「ストラーイクッ」 ばさっ、と音を立てて頭は茂みに消えた。 「明日の練習試合、頑張ろっと」 東高の4番・麻美の顔を思い浮かべながら、 次は、足元に転がっていた小石をぶん投げた。 「むっ、これはボール」 夢中になり、小石ピッチングを2回表まで続けていると、ぷしーっ、という音を出しながらバスが到着した。 サッと乗り込み、いつもの特等席に座り込む。 その瞬間、さっきのベンチをちらっと見る。 白い人形の頭が、 戻っているように見えた。 「むっ…」 恐怖心が好奇心を越えようとしたところに、 眠気が登場して、全てを持っていった。 「ぐーっ」
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