びちっ

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びちっ

2月12日。東高グラウンド。快晴。 「肩の調子、さいこうっ」 マウンドへ向かおうとすると、 どこからともなく、ボールが目の前に現れた。 「びっくりした。でも、ちょうどいいや」 そのボールを、握る。 「プレイボール!」 審判の声と共に体に熱がこもる。 指先に力を入れ、ボールをぶん投げる。 指先に、びちっ、という感触。 そして、 ばちんっ、という音がミットに弾ける。 「ストライーック!」 明らかな手応え。今までと、違う。 「マジで調子いいかも」 びちっ、ばちん。 びちっ、ばちん。 びちっ、ばちん。 三者連続三振。 最高の立ち上がり。 湯気が出ていそうなボールをじっと見つめる。 「むっ?」 なにか白い小さいのがうごめいている。 全体に、うにゃうにゃと。 耳を澄ますと、声が聞こえてきた。 「ヤッパリコイツキノウノヤツダ!」 「ホ、ホントダ!」 「ココハナンダ!ナンダ!」 「何言ってんの?あんたたち」 「ゲッ!バレタ!」 ボールを両の手で覆って隠す。 「逃げないでね〜」 「フザケルナ!サッキカラナカマヲコロシヤガッテッ!モウ9ニンモッ」 「もう9人も?殺しやがって?」 1回表を思い出す。最高のピッチング。 「あ〜、そういうことねっ」 びちっ、という感触を思い出す。 「あれは、あんたの仲間を潰してた感触だったんだね」 「ソウダッ!」 「けど、そのおかげでいい球が放れてるんだよね」 「ゲ!オマエマサカ!」 「今日の試合だけだから、ねっ?」 「マタコロスノカ!」 「全員三球三振で抑えるから、それを7回までやって、うん、あと54人!」 「ピギャーー!!」 東高の4番・ピッチャーの麻美が、 こちらに何か言っている。 「おい、ボール持っていくなよ!試合球だろ」 「これちょっと滑りやすいから、片付けとくよ!ほら、代わりの新しいボール」 指先からびちっ、麻美のグラブからばちん。 「24号ガ…オマエノユビニイタノニ…」 「あっ、ごめん」 「オマエガニギッテイルノハ、ワタシタチノウチュウセンナンダ。モットテイネイニアツカエナイノカ?」 「宇宙船?このボールが?」 「ソウダ。キノウ、イイバショヲミツケテヤスンデイタラ、イキナリブンナゲラレタンダ…オマエニ。」 「あっ、ベンチのアレか!人形じゃなかったんだ、はははっ」 「ユルセナクテ、オマエノアトヲツケテイタンダ。ソシタラコンナシマツダ!ナンナンダココハ!」 「ソフトボールの試合だよ!宇宙船をボールそっくりに作っちゃったのが、運の尽きだね」 「ソンナノシラナイ!」 白い異星人の宇宙船を手に、 マウンドへ向かう。 バッターボックスには不動の4番・麻美。 「いくぞ麻美…これが異星人ピッチングだ!」 びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。びちっ、びちっ、びちっ。 「ゲームセット!」
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