野球

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「55号。残ったのは、私たちだけだな」 「そうだな51号。あの暴走女のせいでな」 「だが、私たちには本来の目的がある」 「そう。この星に忘れ物を取りに来たんだ」 「我々の星の繁殖の母、18号をな!」 「彼女がいなくなってから、うちの星の人口は減っていくばかりだ。彼女を取り戻して、必ず復興を遂げる!」 「で、その18号の存在の匂いを感じたのが、ここってことだな?」 "TOKYO DOME" 「なんと読む?」 「分からん。とにかく行こう」 "スーーーーーッ" 白い宇宙船で、中へ入っていく。 「お、たくさんの人がいるな。こいつらは何を見ているんだ?」 「これ、昨日の女がやっていたことに似ていないか?」 「たしかに、似ている。でも、球の大きさは違うようだな」 "びちっ" 「おい!今の音聞いたか!?」 「聞いたぞ…あれは殺された音だ」 「ここでも虐殺が起きているのか!」 「やっぱエースの彦根を打ち崩せねえなあ」 「また三振とったよ」 「彦根のここ最近のピッチング、半端ないぞ」 「彦根、という男らしいぞ」 「彦根…許さん」 「お、彦根が移動するぞ。後をつけよう」 「裏の方に行くようだ。急ぐぞ!」 "ぶるん、ぶるん、ぶるん" 「待て、静かにするんだ。この音を聞け…」 "ぶるん、ぶるん、ぶるん" 「…18号が繁殖する際に出る音だ!」 「無事だったんだ。安心だ」 「音の方へ向かうぞ!」 "スーーーーーッ" 白い宇宙船をかっ飛ばしていく。 「いたぞ!18号だ!」 「おーい!迎えにきまし…え?」 "ぶるん、ぶるん、ぶるん" "どさっ" 「な、な、なんだこの数は!?」 「100は確実に超えているぞ…」 目の前には、私たちの仲間が積まれている山のようなものが、いくつも作り出されていた。 18号がその作業の手を止め、こちらに気付く。 「55号、51号。久しぶり。元気だった?」 「18号、一体これは?」 "スタスタスタスタスタスタ" 「2人とも隠れて!やつが来た!」 「えっ?やつって?えっ?」 「いいから!!」 彦根が、目の前に現れた。 「おい、100球分できてんのか?」 「はい、こちらに」 「よし。じゃあ次の回の分貰っていくぞ」 "スタスタスタスタスタ" 「私は、この瀬々原キャッツから逃げられないの」 「瀬々原キャッツ?」 「このチームのことよ。この星において、私たちが殺されることが"球を投げる"ということにおいて、とても役に立つらしいの。そして、今ここで行われているのが、野球」 「野球…」 「この星の野球は、もう私たちなしでは成り立たなくなっているの」 「そんなの、勝手だ!」 「耳を澄ましてごらんなさい。ほら聞こえるでしょう?仲間たちの悲鳴が…」 びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ、びちっ… 「大きく振りかぶって、投げました!」 "びちっ" 「平凡なセカンドゴロ。確実に、一塁送球」 "びちっ" 「さあ、犠牲フライには十分な距離!三塁ランナー…走った!レフト、バックホーム!」 "びちっ" 「こんなの…あんまりだ!」 「もう私たちは逃げられない。この星の野球というものに見つかってしまったら最後」 「私たちは、野球と、決して交わってはいけなかったんですね」 今日も、 東京ドームには、様々な音が響いている。 "カキーン" 打つ。 "バシッ" 取る。 "シュッ" 投げる。 "ワーワーワー" 盛り上がる。 そして、 "びちっ" 殺される。
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