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GiorgioがCassisに移って数年が過ぎ、レストランも順調に営業を続けているようで私は安心していた。だから去年の初め、彼からの電話にいつものように他愛のない会話をするだろうと思って出たのだ。しかし、聞いたことのない彼の声が聞こえてきた。
「ここ数週間、体調がよくなくて・・・先週、病院に行ったんだよ。その結果を今、聞きに行って・・・」
「大丈夫?それで結果はどうだったの?」
「・・・白血病だったんだ・・・」
「えっ?!どういうこと?」
電話の向こうで嗚咽する声が私の耳に響いてくる。
「それで?治療は?どうすれば治るの?」
「・・・いや、平均して・・・一年は・・一年は無理らしい・・・」
「何が一年なの?何が無理なのよ?手術とか薬とかあるでしょ?ねぇ!」
Giorgioは泡みたいにあっという間に消えてしまった。簡単に。医者の予測通りクリスマスまでもたなかった。去年は寒いクリスマスだった。いつも気丈なAngelaは、日に日に弱っていった。息子を看取る頃には、彼女も患者のようだった。それでも夫が自分の名前をつけてくれたレストランを守り続ける決心をして、Cassisに戻っていった。私の喪失感は彼女の強さで癒されていた。
「Anna、この店を継いでくれないかしら。」
「どうして?頑張るって言ってたじゃない。」
「えぇ、頑張ってみたんだけどね・・もう疲れちゃったよ。」
「私、もう48よ。もっと若い人じゃなきゃ。」
「何言っているのよ。Antonioが死んで、私がこの店を一人で続けることにしたのは60の時よ。」
私は大きな溜息をついた。
「もうすぐ70になるし。のんびり暮らしたいと思ってね。」
「・・そうねぇ、もう十分頑張ってきたものね・・」
「でも知らない人に店を売りたくはないのよ。私の生きているうちは。」
彼女の気持ちはとてもよくわかっていた。愛する夫の始めた店を死ぬまで守りたいのだろう。息子に、孫に、代々引き継いでいきたかっただろう。
「ごめんなさい。少し時間をください。」
彼女の気持ちを思うと、無下に断ることはできなかった。私はイタリアで輸入業の会社に勤めていたが、その仕事は私でなくても誰かが代わりにできる。でもAngelaの頼みは私しか受けられないのだと、しばらく思案した末に結論を下した。
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