§1 男女交際

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§1 男女交際

 10月のある日、汐梨が教室で弁当を一人で食べていると、 「よっ、雨宮。ちょっと良いか?」と声を掛けて来たのは、同じクラスで剣道部の大空(おおぞら)奏汰(かなた)だった。 「ああ、大空君か、わたしに何か用?」 「お前、弓道部だよな。姉貴がよろしくって!」と言われ、汐梨は一瞬何の事か分からなかった。思考を巡らし、ようやく海里と奏汰の関係に気が付いた。 「えー、うそ、そうなんだ!大空君は、海里先輩と姉弟なの?今まで、気付かなかったよ」 「それでさ、そういった縁で、俺と付き合わない?」と突然の告白に、汐梨の思考が止まった。縁には違いないが、弟の奏汰が告白してきた意図が分からなかった。 「なら、いいよな!来週の日曜日、デートしよ!」と強引に誘われ、汐梨は断り切れなかった。  雨の日曜日、午前の部活が終えた二人は、ショッピングモールで待ち合わせた。遅い昼食をフードコートで食べ、部活や学校のたわいのない話で時間を過ごした。そして、奏汰の姉海里の話になった。 「海里先輩は、どうしてるの?夏以来会ってないんだけど、元気なの?」と汐梨が訊くと、 「姉貴の事が、そんなに気になる?受験勉強が忙しいみたいで、遅くまで勉強してる。ところで、お前、姉貴に何かされた?姉貴もお前のことを気にしてたみたいだから」と逆に問い詰められた。 「お姉さんから、何か聞いてるの?弓道を親切に教えてもらっただけで、何にもないよ!」と釈明した汐梨は、少し気分を害していた。汐梨が席を立って出て行こうとすると、奏汰が追うようにして話し掛けた。 「何、怒ってるの?姉貴の事は置いといて、俺と付き合ってくれるよな!誰か好きな奴いるの?」 「そんな人、いないけど。わたし、今まで付き合った経験がないから、よく分からない」と言うのを聞いて、奏汰はもう一押しだと思った。汐梨は男子に言い寄られる喜びを感じていて満更ではなく、押しが強い奏汰に屈した形で交際を受け入れた。雨の帰り道、一つ傘の中で肩を組まれた汐梨は、 「交際初日にこんな風にして、大空君は積極的というか、慣れてるんだね」と憎まれ口をたたいた。 「付き合うんだから、いいだろう!それから、俺のことは大空君でなくて奏汰と呼んで。しおり!」と耳元で言われ、汐梨は何となく幸せな気分を味わっていた。
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