§2 口づけ

1/1
前へ
/43ページ
次へ

§2 口づけ

 私と奏汰は連れ子同士で、小4だった時に父親が小2の奏汰を連れた母親と再婚した。戸籍上は姉弟だが、二人の血はつながっていなかった。初めの内はお互いに煩わしい存在だと思っていたが、両親ともに忙しかったため、夜は一つ家で二人だけで過ごす事が多かった。奏汰が中学に入学した頃には、夕食を一緒に食べるようになり、勉強や部活などの会話を自然と交わすようになっていた。  ある晩の事、私がお風呂から上がって部屋に戻ろうと二階に上がると、奏汰の部屋のドアが半開きになっていた。のぞくともなしに部屋の中をうかがうと、奏汰がパソコンを見ながら背中を丸めて身体を動かしていた。耳にはヘッドフォンをしていて、音楽を聴きながらリズムでも取っているのかと思った。しかし、そうではなく、ディスプレイには男女の絡み合う姿が映し出されていて、奏汰はそれを見ながら自慰をしているのだと分かった。私はあわててその場をあとにし、逃げるように隣の自分の部屋に戻った。男になった奏汰の顔や身体が頭から離れず、私はベッドの中で自身の胸と秘部に初めて手を当てた。それをきっかけにして、私は奏汰を異性として意識するようになっていた。両親や周りは仲の良い姉弟だと思い込んでいたが、性への関心が強い時期でもあり、好奇心を持ってお互いを観察していた。  また、私が高一のある日の事、部活を終えて家に帰ると、私の部屋のベッドで奏汰が寝ていた。いくら家族だと言っても女子の部屋に勝手に入り、しかもベッドで眠りこけている非常識さにあきれた。しかし、ぐっすり寝入っている顔が愛らしく、じっと見つめている内に無意識に唇を重ねていた。ほんの一瞬だったが、奏汰は目をぱっちりと開けて私と視線を合わせていた。 「あっ、冗談だからね。練習だから…」と苦し紛れの言い訳をすると、 「えっ、キス?何の練習?」と驚きを隠せない様子だった。私は自分の事は棚に上げて、 「どうして、私の部屋にいるの?しかも私のベッドで寝てるのよ」と奏汰を責め立てた。奏汰はよく分からない言い訳をしながら、部屋から出て行った。  高校に入学した私は、中学の時のあこがれの先輩を追って弓道部に入った。一つ上の月岡(つきおか)隼雄(はやお)とは中学の図書委員会で知り合い、一緒にカウンター当番を何度かして親しくなった。彼は色白の優男(やさおとこ)で、どちらかというと私の方が積極的だった。というのも、私はそれまで男子には関心がなかったものの、奏汰の事が気になり始めていた。義弟として好きになってはいけない相手だと思い、その気持ちを月岡先輩に向かわせた。弓道に特別な興味があった訳ではなく、ただ奏汰への思いを紛らわすために入部した。そんな不純な気持ちでいたのに、月岡先輩に夏合宿で交際を申し込まれた。 「大空さんは、ぼくのことをどう思っているの?ぼくを追い掛けて、弓道部に入ったんだよね」 「は、はい!月岡先輩をずっと思っていて、私の初恋の人なんです」と気を引くような事を、平気で言っていた。実は、私の初恋の相手は奏汰で、決して月岡先輩ではなかった。  それから私たちは付き合い始め、呼び方も月岡さんから海里に変わった。夏休み中の部活帰りや休日には毎日のようにデートをしたが、私は心が時めく訳でもなく白けていた。しかし、彼は別人のように積極的で、付き合い始めてすぐに手をつないできたり、背中に手を廻したり抱き寄せたりと下心が透けて見えていた。優男だと思っていた彼は、いつの間にか下衆(げす)男に変貌していた。 「海里、キスしてもいい?」と訊かれたのは、付き合い始めてから2週間後の事だった。 「私たち、付き合い出したばかりで、そんな事は考えてなかった。まだ早くないですか?」 「そんな事って、なに?好きだったら当然だし、中学からの付き合いだと思えば、決して早くはないよ」と彼は、理屈の通らない御託(ごたく)を並べていた。その日のキスは何とか回避して家に帰ると、奏汰がベッドに寝ていたので我ともなくキスをしていた。それが私のファーストキスだった。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加