§4 性的指向

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§4 性的指向

 月岡隼雄(はやお)とはそれから何度か交わったが、私は俗にいう快感を味わう事はなかった。 「隼雄さんは、私が初めてじゃないですよね。随分慣れているみたいでした」と私が訊くと、 「そうだよ!高1で童貞は卒業した。相手は処女じゃなかったから、いろいろと教わったんだ」と抜け抜けと体験談を語り出し、そのデリカシーのなさにあきれた。初体験の相手として相応(ふさわ)しいと思っていたのは間違いで、あこがれのままで生々しい関係になるべきではなかったと後悔し始めていた。他の男子の事はよく知らないが、彼の性欲は旺盛で、時と場所をわきまえる事なく求めてきた。それは神聖な弓道場だったり、体育館倉庫だったり、生理の時には口で慰めるよう強要された。 「こんな所で、誰かに見られたらどうするの?それに、今日はあの日だから出来ないよ」 「だったら、口でして!フェラのやり方を教えて上げるから、いいだろ!」と無理強いされた。それもいつ人が通りかかるとも知れない公園で、彼は立ったままで樹に寄り掛かり、私はそこにひざまずいて男性器をくわえさせられた。ただくわえるだけだと思っていたのに、(のど)の奥まで突っ込まれて口の中に射精された。私は性処理の道具にされた気分で、涙目で口をぬぐっていると、 「ああ、気持ち良かった!海里、上手いじゃん!才能あるよ」と何の配慮もない言葉を言い放った。 「もう私、限界。前から別れたいと思っていたけど、部活の事もあって我慢してたんです。月岡先輩は、ただ私とやりたいだけなんでしょ!というより、性処理の相手なら誰でも良いんですよね」と突き放した。  屈辱と口惜しさを抱えながら家に帰ると、奏汰が心配そうに出迎えてくれた。 「どうしたの?何かあった?」と声を掛けられ、奏汰の胸に飛び込んで泣きたい気持ちなのを我慢した。 「海里、弓道部の先輩と付き合ってるんだろ?今日、公園で二人して歩いているのを見ちゃった!」と言われ、あのふしだらな行為をもしかして見られたのではないかと不安に駆られた。。 「公園のどこで?」と私が探りを入れると、 「奥の方に歩いて行ったから、声を掛けそびれた。彼氏は木蔭に立ってたけど、海里の姿は見失った」と言われて驚いた。これ以上話していると墓穴を掘ると思い、私は話題を変えた。 「奏汰も、琴子ちゃんと付き合い出したんでしょ?」 「何で知ってるの?海里が彼氏を作ったから、俺も付き合う事にした。海里はどこまでやったの?」 「何よ、それ!奏汰はまだ中学生なんだから、清く美しい交際をしなさいよ」と言ってその場を逃れた。  私は月岡隼雄と別れ、部活ではなるべく接触しないように心掛けた。彼の初めての相手は卒業した先輩で、まだその彼女と付き合ってる事を知った。つまり、私は二股を掛けられていて、性欲を処理するための都合の良い相手でしかなかった。初体験を焦ったばかりに、(みじ)めな思いにさいなまれた。  高2の時に奏汰と間違いを犯した後、私は罪の意識から奏汰を避けるようになった。奏汰もそれ以上求めて来る事はなく、家の中では普通に姉弟を装って過ごした。私は男に対する拒絶反応が強まり、同性への関心が高まっていった。そして、奏汰が交際している風見(かざみ)琴子(ことこ)にモーションを掛けた。琴子は私に奏汰との事を相談してきて、その時に迫ると簡単に私の物になった。 「奏汰君がエッチなんです!キスまでは良いかなとしたんですけど、おっぱいに触ってきてびっくり!同じ女子に触られるのも嫌なのに、いくら好きな男子でも絶対嫌なんです」と琴子が訴えてきた。 「奏汰も男だからね!琴子ちゃんは、まだそういう事に免疫がないんだよ」と言って、彼女の胸に手をそっと添えた。最初の内は嫌がっていた彼女だが、次第に身体を預けて甘える素振りをするようになり、その態度が可愛らしくて節度を見失った私は口づけをしていた。ただ口と口を合わせるだけの口づけが、しばらくすると舌を使った恋人同士のそれに変わっていた。  私と琴子の関係を知った奏汰は、彼女に無理矢理迫ったらしい。琴子は泣きべそをかきながら、 「もう奏汰君とは付き合えないって言うと、いきなり押し倒されたんです。キスをする訳でもおっぱいに触るわけでもなく、スカートをまくって脚を開かされたんです。それで…」と申し立てた。 「それで、最後までしちゃったの?」と私が彼女の背中をさすりながら確かめると、どうやら奏汰はできなかったらしい。琴子の抵抗もあったが、奏汰自身に問題があったようだった。  次に手を出したのが、弓道部の後輩の雨宮(あまみや)汐梨(しおり)だった。彼女はまだ精神的に幼く、男子よりも同性の私に魅力を感じたようだった。弓道部の合宿の夜に迫ると、緊張しながらも私の求めに応じた。恐らくまだ男子と恋愛の経験がなく、私にあこがれを抱いていたので容易に思い通りになった。ところが、それを知った奏汰が、同級生である汐梨に声を掛けて交際を迫った。奏汰の思惑は、琴子を奪った私への仕返しだと察しがついた。その頃、私は受験勉強もあり、そんな事にかまけている暇はなく無視していた。奏汰の不心得な考えから始まった交際だったが、順調に恋愛関係へと発展していたようだった。
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