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§7 初デート
初めてのデートは汐梨が計画した鎌倉で、電車を乗り継いで着いたのは昼近くになっていた。鎌倉駅のバーガーショップでお昼を食べ、鶴岡八幡宮を参拝し、ガイドブックを見ながら銭洗い弁天、北鎌倉周辺を散策した。雷太は常に汐梨をエスコートし、汐梨もそれに甘えるようにして歩き、学校にいる時よりも話が弾んで二人の仲は深まった。そして、雷太が海を見たいと初めて自分の思いを伝えてきたので、汐梨は喜んでそれに賛同し、江ノ電に乗って江の島にやって来た。
「長野は山ばっかりで海がないから、見たかったんだ。すげーな!海は広いな」
「何それ、歌の歌詞じゃん!海を見てると、気持ちも大きくなるよね」と言いながら、汐梨は雷太の太くたくましい腕を両手で抱え込んだ。雷太は初めの内は身体を堅くしていたが、
「シオリン、胸が肘に当たってる!結構大きんだな」と予想外の言葉をつぶやいた。
「えー?ライタンからそんな言葉を聞くとは、思わなかった。海のおかげかな!恥ずかしいよりも、驚きが勝るよ。遠慮しないで、自分のしたい事とか言っていいよ!エッチな事は、ここまでだけどね」と言ってはみたが、思っている事をすべて口にする奏汰とは正反対だと思い起こしていた。雷太のそういう所が安心できるが、もう少し積極的にあってほしいという気持ちもあり、何となくもどかしい思いがあった。
二人は海岸で恋人のように過ごした後、手をつないで駅に向かった。電車の中では肩を寄せ合って座り、
「ねえ、ライタンは今まで女の子と付き合った事はないの?」と汐梨が気になってる事を口にした。
「ないよ!ずっと部活に夢中だったから、そんな余裕はなくて。シオリンはあるんだよね」と切り返され、また自分の首を絞めてしまったと悔まれたが、今さら隠し立てをするつもりはなかった。
「花恋から聞いて知ってるんでしょ!高1の時に、ちょっとだけね」
「剣道部の大空だよね。どうして別れたの?」
「まあ、いろいろあったんだよ!でも、別れてからは会ってないから」と汐梨の頭の中には、奏汰との逢瀬がよみがえっていた。早くこの話を切り上げたいと思ったが、
「そいつに、何かされたの?傷付いたなら、おれがぶん殴ってやろうか?」と雷太は憤慨していた。
「ちょっと怒ってるの?花恋から、どこまで聞いてるのよ!今はライタンだけだから、心配しないで」と自分自身に言い聞かせるように、雷太をなだめて落ち着かせた。
高3の新学期を迎え、汐梨は花恋に雷太との事を報告した。
「そうか、鎌倉デートか、いいな!で、どこまでいったの?」
「北鎌倉を歩いて、江の島で海を見た」
「場所じゃなくて、二人の関係を聞いてるんだよ」と花恋に笑われ、汐梨は手をつないだことを話した。
「それって、多分だけど、汐梨からつなぎにいったんでしょう。氷室は奥手だからな」と花恋は何でもお見通しだった。そして、お互いの交際経験について語り合った事を打ち明けた。
「雷太は付き合った事がないのに、私は元カレとあんな事もこんな事も経験してて、最後まではしてないとしても、したようなもんだよね!それが後ろめたいというか、申し訳ないような気がするんだ」
「そんな事を気にしてるの?ばかだな!氷室は、そんな事でどうこう言うような奴じゃないよ!それに、付き合った事はないかもしれないけど、経験はあるんじゃないかな」と花恋が何気なく言った言葉に、汐梨は引っ掛かった。間髪を入れずに訊き返すと、
「あっ、まずった!口止めされてんだ。まあ仕方ないや。実はさ、氷室は例のラグビー部の女子マネと経験済みだよ。彼の言うように付き合ってた訳じゃなくて、彼女の餌食になったんだよ」と明かした。
「そうなんだね!分かったから、その話はもういいや」と汐梨は意外と冷静だった。
「それを聞いて、少し気が楽になった。でも、なぜ私には何もして来ないんだろ?」
「汐梨を好きだから、大切に思ってるんじゃない?汐梨が物足りなく思ってて好きだったら、自分から行けばいいんだよ!寝てる子を起こすのは、簡単な事だよ」と汐梨を仕向けた。そして、花恋は思わせ振りに、
「わたしも実は、今、付き合ってる人がいるんだ」と打ち明けた。バイト先で知り合った大学生で、すでに身体の関係にあると話し、汐梨を驚かせた。花恋の積極性に、脱帽する汐梨だった。
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