§2お預け

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§2お預け

 中間テストが終わると、高校最後のインターハイに向けて部活漬けの毎日だった。弓道部は県大会での上位入賞を目標にしていたが、ラグビー部は9月から行われる県大会を経て、年末年始の花園ラグビー場での全国大会を目指していた。そんな事情もあり、初めてのキス以来、二人が教室以外で会う機会はなかった。  県大会では団体個人ともに奮わず、わたしの弓道部の活動は夏合宿での後輩指導で終わった。雷太のラグビー部はこれからが正念場で、わたしが邪魔をする訳にはいかなかった。それでも特に寂しいとか、会いたいとか思う気持ちはさほどなく、受験勉強に没頭する事ができた。  久し振りに雷太の部屋に出掛けて行ったのは、ラグビー部が11月の県大会で優勝した二日後だった。全国大会出場のお祝いをしたいと、昼休みに約束を取り付けていた。彼の部屋にはフライパンしかないのを思い出し、焼きそばの材料を買って訪ねて行った。ところが、部屋には同学年の男子3人と後輩の女子1人が既にいて、わたしは気まずくなって帰ろうとするのを呼び止められた。どうやらラグビー部の仲間と2年生の女子マネで、祝勝会を催している最中だった。わたしに居場所はなく間が持てないでいると、 「先輩、お握りを作るので手伝ってくれませんか?」と女子マネの子が気を遣って呼んでくれた。焼きそばもおかずになればと言って、二人で調理をする事になった。 「先輩は、雷太先輩の彼女ですよね。部屋に一人で来るなんて、仲が良いんですね」と訊かれ、 「部屋に来たのは二回目で、一緒に勉強しただけだからね」と言い訳のような返答をしてごまかした。すると、台所で調理をしているわたしの耳に、男子たちがひそひそ話をしている声が入って来た。それは、「雷太、もうやったのか?」「どうだった?」「お前のでかいから、彼女も大変だな」という下衆(げす)勘繰(かんぐ)りで、雷太は真っ赤になって異を唱えていた。わたしはそういう目で見られるのが嫌で、この場から直ぐにでも退散したかったが、女子マネの子に引き留められた。 「男なんて、口ばっかりですから。あの中の一人、彼氏なんです。ああやって下品な話をしてますが、二人切りになると何もできないんですよ!だから、あたしたちはピュアな関係なんですよ」と後輩の方が男の習性をよく知っているようで、年下になだめられたわたしだった。  あっという間にお握りと焼きそばを食べ終わり、雷太とわたしを残して4人は早々に帰って行った。その帰り際に「雷太、がんばれよ」とか「やり過ぎて鼻血出すなよ」とか、「ゴムあるか」と口々に声を掛け、最後に女子が「雨宮さん、よろしく」と言って帰って行った。わたしは下卑(げび)た会話に辟易(へきえき)としていたが、やっと雷太と二人になれたという思いの方が強かった。  皆が帰った後、台所で後片付けをしていると雷太が後ろに来て、 「ごめん!シオリンが部屋に来ると知って、あいつらが勝手に押し掛けて来たんだ」と謝った。 「いいよ、気にしてないから!でも、わたしたちはまだそういう関係じゃないんだから、誤解されないように本当の事を話して置いてね」と告げると、雷太が後ろから抱き締めて来た。 「そういう関係って、エッチのこと?まだってことは、いつかそういう関係になるんだよね」と言いながら、雷太の手はわたしの胸の上に置かれていた。今日の雷太は、別人のように積極的だった。 「ちょっと、どさくさに紛れておっぱいに触ってるんですけど!」 「だめ?おれ、シオリンとやりたい!」と駄々っ子のようにせがんでいたが、わたしはにべなく一蹴(いっしゅう)した。花恋が言っていたように、寝てる子を起こしてしまったようだった。雷太は渋々とわたしから離れ、畳の部屋に戻ってしょんぼりと座っていた。その姿が獲物を逃した熊のようで可愛らしく、わたしは母性本能をくすぐられた。小さい頃によく父親の股の間に入った事を思い出し、雷太の開いた脚の間に身体を滑り込ませた。そして、下から見上げるようなキスをすると、雷太は機嫌を直して包み込むように抱いてくれた。ただ父親のそれと明らかに違う点は、キスをした事と腰の辺りに男を感じた事だった。それと、また両手で胸を触ってきたが、わたしは知らん顔をして自由にさせておいた。 「そんなに、わたしとしたいの?どうして?性欲を我慢できないから?」と明け()けに訊くと、 「うーん、それもあるけど、シオリンが好きだから。やってもいい?」と正直に意思表示をしてきた。 「自分の気持ちを言ったの、初めてだね。いつものライタンじゃないみたいだけど、試合が終わって興奮してるとか、友だちにそそのかされたとか?うれしいけど、今日は駄目!」 「どうして?いつなら良いの?」と食い下がってきた。このまま押し倒されて強引にされたら、受け入れるしかないと覚悟していたが、雷太にその気配はなかった。 「そうだな、全国大会に優勝できたなら、やらせてあげる!今は、女の子に(うつつ)を抜かしてる場合じゃなく、最後の部活を頑張んなくちゃ。その代わり、おっぱいをいっぱい楽しんだでしょ」となだめすかし、 「今日はもう帰らなきゃ!帰った後で、わたしの事をおかずにするんでしょ!鼻血を出さないように、ほどほどにね」と言って部屋を出た。言った後で、下品な言葉を使った自分が信じられなく、猛省した。
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