勇者に捧げる食事

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「お母さん、年越しそば、片づけるね」 こたつの上には年越しそばを食べた器がそのままになっている。 「ああ、絵里(えり)ちゃん、ありがとう」 母はこたつでうとうとしている。私は年越しそばを片付けながら、おせち料理をちょっとずつ小皿にのせた。年越しそばの残りも、小さな汁椀によそった。 時刻は10時45分。そろそろだ。 「お母さん,お父さん、おじいちゃん、もう私、寝るね」 「あーあ。おやすみ。よいお年を」 ほろ酔いのお父さんが答える。弟が転生した直後はくよくよしていたけれど、だいぶ元気になった。 私は自分の部屋にいくふりをして外に出ると、納屋に向かった。 私の家は兼業農家だ。だから、大きな納屋があり、農機具や古い家電などのガラクタがつまっている。 その中に黒電話がある。死んだおばあちゃんが、捨てられなくてここに置いたんだと思う。 その電話が、年に一回、大晦日の午後11時に、鳴るのだ。 このことを知っているのは私だけだ。四年前、急にお客さんが来ることになって納屋に食器をとりに来た時に、いきなり黒電話が鳴り始めたのだ。 ああいうのは心臓に悪いから、本当にやめてほしい。
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