勇者からの便り

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勇者からの便り

私は納屋の電気をつけて、黒電話の前に座った。持ってきたおせちは小さな折り畳み式のテーブルの上にのせた。 ジリリリリリ 電話が鳴った。 受話器をとる。懐かしい声が聞こえる。 「もしもし、姉ちゃん」 弟だ。異世界では『燃える瞳のタシケント』と呼ばれている勇者だ。なぜタシケントかと言えば、こちらでの名前が剛士(たけし)だったからだ。 まあそんなことはどうでもいい。弟と話せる貴重な時間だ。無駄にはできない。 「元気そうでよかった」 「元気だよ。東の竜騎士団とも無事に講和できたしね」 「聖剣の奪い合いしてたんだっけ」 「うん。なかなか決着がつかなかったんだけど、黒衣のエリーゼが双竜のいかづちを使えるようになったから一気にこっちが有利になってさ」 「ああ、うん、よかったね」 黒衣のエリーゼは、弟のパーティで一番腕の立つ美少女剣士だ。弟ははっきりとは言わないが、巨乳であるようだ。 「竜騎士団との講和がすんだら、クリスタルの結界に封印されてる特級魔術師のルマンドを解放して魔王を倒すだけ。だいぶ先が見えてきたよ」 ルマンドはスレンダーのツンデレ魔術師。オッドアイの美少女らしい。勇者である弟をかばって封印されてしまった。 お前のパーティは女ばっかりやなあと言いたくなる。 でも、たった一年に一時間の会話でけんかはしたくない。ぐっと我慢する。これは大晦日の午後11時から11時59分までの、特別な電話なのだ。
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