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「姉ちゃん、そんなことよりさ・・・」
「あ、そうそう。ほら」
私は受話器をテーブルの上の年越しそばに近づけた。受話器からにおいが伝わるらしい。
「ああー-。いいにおい」
「お母さんが昆布とカツオ節でだしをとったんだから、最高だよ。ブリの照り焼きをのせてる」
「食べていい?」
「どうぞどうぞ」
年越しそばがズルズルズルっと消えて、次に数の子、黒豆、伊達巻、筑前煮が消えていった。
なぜだか分からないけど、黒電話とテーブルだけが、異世界とつながっている。テーブルに乗っているものを弟は食べることができる。
王宮の宝物庫の中でなぜかプッシュ式の電話機を見つけた弟は、思わず自宅の電話番号を押した。それがたまたま納屋にいた私につながったのだ。
「ああ、うまかった」
「もっと持ってこようか?」
「いや、このあと王宮で新年会があるからさ。そこで食べっぷりが悪いと国王の機嫌が悪い」
「勇者様だもんね」
「うん・・・電気トカゲの放電を、姉ちゃんにも見せてやりたいよ」
こちらで花火をあげる感覚で、巨大な電気トカゲの放電合戦が行われるのだそうだ。口からバチバチとスパークする電撃がとても美しい・・・らしい。
王宮のバルコニーからそれを国王とともに眺めるのが勇者の新年の初仕事だ。
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