勇者のお悩み

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勇者のお悩み

「王宮の料理、まずいわけじゃないんやろ」 「うん。おいしいよ。でも、こっちの味付けって、塩とスパイスが基本でさ。スパイスの加減で変化をつけるんよ。タンドリーチキンみたいな感じ。おいしいんだけどさ・・・みそと、しょうゆが、めちゃくちゃ食べたい」 「作れないの? なんだっけ錬金術師?  みたいなのに頼んでさ」 「ああ、錬成師ね。頼んでみたよ。でも、こちらの世界体系にないものは錬成できないって・・・俺、こっちにいる限り、みそもしょうゆもかつおぶしもこんぶも・・・食べられないんだよ」 「それは・・・さみしいな」 「うん・・・さみしいよ」 私はハッとした。弟の口から、寂しいという言葉を聞いたのは初めてだった。いつだって弟はおいしそうに料理を平らげて、自分の活躍を熱く語って、 「じゃあ、また来年。」 と、元気に電話を切っていたのだ。弱気になってる? 「姉ちゃん、お母さんは、元気にしてる?」 「うん。最初の頃はだいぶ弱ってたけど、今はそうでもない」 弟が転生したことを母はなかなか受け入れられなかった。弟を失った悲しみに加えて、ワイドショーなどで転生者の事を大げさに取り上げられるようになると、いろんなことを言われた。
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