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*I doll y
彼女は窮地の危機の中で、他人事のように確認する。緩やかに上がり下がりする自分の位置を。
どうやら空洞の体の中に空気と水が二分の一と。
残った空気は少女を浮かせようとする。流れ込む水は少女を沈ませようとする。
「まるで濁った川を流れてゆく捨てられた大量生産の着せ替え人形の気分みたい......」
少女は想った。
「私の代わりなんて幾らだって存在のに......」
その身体は眩しく照らす非と否の火に心まで透けたセルロイド製。この息苦しさは纏いつく破れたタブロイドのせい?
凶暴すぎる事実は祀られた偶像の足場を崩し、共謀する虚実は無記名で面白おかしく祭りあげた。
雲の上に住んで居た愛らしい少女は、その雲が降らせた雨が作った川に転落した。
スキャンダルの縦断は雲の絨毯を溶かし、中傷の銃弾は少女の心に穴を空けた。その穴から悲しみが流れ込み、重さが彼女を溺れさせようとしている。
腐乱してもなお美しい仏蘭西人形のような少女は、濁流に飲まれながらも光を放つ。導く星の光をその空っぽの中に詰め込んだ如く。
穿孔から漏れる水と闇のあいだの閃光が音も無く潜航して消える。川の流れは勢いを増し水の速度は少女を飲み込む。息が耐えるまで翻弄し続ける。
少女はまるで踊っているオルゴール人形のように苦痛に身を攀じる。それは緩やかに回り緩やかに消えゆく最後のダンス。
「私は白馬に乗った王子様なんて夢見てないの。欲しいのはこの泥濁から救い上げてくれる貴方の掌だけなの......
穢れた私を綺麗に洗って......そして誰も触れられないガラスケースの中に閉じ込めて......
好奇の目に晒される高貴を演じる振りは私には無理だったの......
恋愛禁止なんて守れない......気持ちは止められない......
私は本物の人形になりたかった......ガラスケースの中の人形に......
見つめてくれるのは貴方だけでよかったのに......」
やがて希望の一息さえ吐き出した絶望の少女は、手首から流れる暖かみで赤く染まった水底に沈んだ。
*Fin
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