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「若い頃の話さ」
福留さんはポツリと話し始めた。須崎さんと俺は福留さんに目線を合わせるでもなく、耳だけをそちらに傾けた。
「俺と親友とで、小さな商社をやってたんだ。デカい会社のやつらが行けないような奥地に入ってって、交渉をしたり仲介をするような、要はヤマ師みたいな仕事さ。東南アジアのいろんなところに出かけてっては、まだ日本で紹介されていない珍しいもんを見つけたりとかな。
その島にしかいない猿を撮影したいなんて日本のテレビ局から依頼されて、二人で探しに行ったりもした。現地の言葉が通じなくて危うく捕まりそうになってな。大変だったが楽しかったよ。
このバラココーヒーも、フィリピンの農場で細々と作っていたのを親友が見つけてきたんだ」
一息で喋り過ぎたのか、そこで区切ると福留さんは再び目を閉じてしまった。
「コーヒー、淹れ直してきましょうか」
須崎さんが立ち上がりかけた気配に、福留さんは首を横に軽く振った。
「いいよ、このままで。マスターの淹れたコーヒーは冷めても旨い」
「ありがとうございます」
思い出したようにコーヒーをひと口含むと、福留さんは再び話し始めた。
「俺はデカいヤマを当てるのが得意だったが、粘り強い交渉ごとにはからきしだった。親友はコツコツと関係を積み重ねて信頼を得るのが上手かった。当時のフィリピン人には日本人が嫌いなやつも多かったからな、酷い言葉も掛けられたよ」
「戦争の爪痕ですね」
須崎さんが合いの手を入れると、福留さんは小さく頷いた。
「だが親友は、親身になって農場の援助を続けた。コーヒー豆や農作物を積極的に日本のデカい会社へ紹介したんだ。ようやく販路が開けそうだ、って時に」
福留さんは、そこで少し言葉を詰まらせた。
「心筋梗塞でな。あっけなく逝っちまった。その前から別の案件の交渉でしんどいしんどいとは聞いていたんだ。タバコの量も増えてたみたいだったしな。もっと仕事を振り分けて負担を減らしてやりゃあ良かったんだが、あいつは何も言わなかった。全部一人で抱え込んじまったんだ」
福留さんは長いこと自責の念に駆られていたということか。過去に執着のない俺には分からない心境だ。
「俺は成功もしたが失敗も多かった。親友は黙って尻拭いをしてくれていたんだ。そんなのも後になって気付いたことさ、全く情けないやな」
福留さんはそう言うと、自嘲するように笑った。
「その親友の方は、日本で亡くなられたのですか?」
須崎さんの質問に、福留さんは苦笑いを浮かべていいや、とかぶりを振った。
「あっちでだ。日本に居たら、もしかしたらすぐに病院で適切な処置ができていたかもな。
あいつには何もしてやれなかったくせに、この歳まで生き長らえた俺なんかがお国の税金を使っちまったら申し訳ない」
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