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由香里③
達也が出て行ってから30分が経過した。これはもう確実に死んでいる。由香里は達也が飲んでいたコーヒーカップを見た。半分ほどだがしっかりと飲んでいる。入れた睡眠薬が、しっかりと効いたのだろう。
点けているだけのテレビの音が部屋にやたらと響く。軋むソファの上で、ぼんやりと左手の指輪を見つめた。
指輪は洗面所にあった。亜里沙の糞尿を片付けていた時に汚れたので、洗って、置きっぱなしにしていたのだ。そのことをすっかり忘れていた。人を殺した直後で気が動転していたとはいえ、間抜けだった。
だが、達也にコーヒーを飲ませることは出来た。戻ってきた時にはすでに眠っているかと思っていたが、まだ効いていなかった。当初の予定では眠った達也を外へ運び出し、放置する予定だったが、その手間が省けた。
ため息が零れた。一つ、また一つと零れる度に頬が震え出し歯がガタガタと鳴った。由香里はテレビを消した。達也が飲み残したコーヒーに一瞬目をやり、すぐに逸らして、ソファに横になった。
人間を2人殺した。亜里沙を殺すまでは確かにあった殺意が今となっては信じられなかった。後悔はしていない。したくない。してたまるか。なのに怖くて仕方がない。
吹雪はさらに強くなっている。亜里沙を殺したこの場所など一刻も早く立ち去りたかったが、どうすることも出来ない。
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