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早く助けてほしい。全部終わったから、早く来て、と連絡してからもう1時間以上経っている。由香里はうずくまり、目をきつく閉じた。眠ってしまいたかったが、いつまで経っても眠気はやってこず、体にヒビが入っていくみたいに痛んでいくだけだった。それでも由香里は立ち上がらず、体を縮め、時が過ぎるのを待った。しっかり洗ったはずなのに亜里沙の糞尿の匂いがどこからかしてきた。鼻を乱暴にこすり、頭を掻きむしる。
どれくらい経っただろう。気がつくと眠っていた。重たい瞼を少しだけ開くと、吹雪の中に微かにエンジン音が聞こえてきた。由香里は飛び起きて、すぐに玄関へ向かった。車は別荘の近くに停車した。心臓が激しく鼓動している。両足が透明になってしまっているみたいにふわふわしている。近づく足音が大きくなっていく。喉奥で声にならない声が弾けそうになっている。足音が止まる。ドアノブが下がった。由香里は駆け出して、そこに立っていた男の胸へ飛び込んだ。
「遅いよ」
「悪い。でも、さすがにこの吹雪じゃあ仕方ないよ」
「最悪」
「ごめん。それより、大丈夫か?」
「わかんない」
「そうか。よくがんばってくれた。ありがとう」
「でも、よかったの?」
「何が?」
「息子さん」
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