1人が本棚に入れています
本棚に追加
「構わないよ。どうせ生きてたって役に立たないバカ息子だ。君が気にすることじゃない」
男が由香里を優しく抱き寄せた。由香里は目を閉じ、男にしがみつくように腰に手を伸ばした。目いっぱい力を込めて、息が出来なくなるくらい顔をお腹にうずめた。
「もうこれで大丈夫だ。本当にありがとう。少し休もう。お酒買ってきたんだ」
まわしていた手を離し、顔を上げた。男が持っていた袋からワインを取り出した。
「うん。グラス持ってくるね」
「いいよ。君はゆっくりしてな。僕がやるから」男は由香里の肩に手をやった。
「ありがとう」
「いろいろ助かったよ。本当に。ほら、準備するから、そっちで待ってて」
男がソファに目をやった。由香里は男の手を握って降った。自然と笑みが零れた。
「待ってる」
男が困ったように笑い、ゆっくりと手をほどいて、台所へ向かった。
由香里はソファに座り、文庫本に手を伸ばした。10ページほど読んだところで男がワインの入ったグラスを2つ持ってきた。
「お待たせ。はい、どうぞ」
由香里は文庫本を置いて、差し出されたグラスを手に取った。
「じゃあ、乾杯」
「乾杯」
グラスが鳴る。ワインを喉へ流し込む。やっとこれで終わった。瞼の裏に溜まっていた涙が溢れて頬を伝った。
最初のコメントを投稿しよう!