由香里③

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「構わないよ。どうせ生きてたって役に立たないバカ息子だ。君が気にすることじゃない」  男が由香里を優しく抱き寄せた。由香里は目を閉じ、男にしがみつくように腰に手を伸ばした。目いっぱい力を込めて、息が出来なくなるくらい顔をお腹にうずめた。 「もうこれで大丈夫だ。本当にありがとう。少し休もう。お酒買ってきたんだ」  まわしていた手を離し、顔を上げた。男が持っていた袋からワインを取り出した。 「うん。グラス持ってくるね」 「いいよ。君はゆっくりしてな。僕がやるから」男は由香里の肩に手をやった。 「ありがとう」 「いろいろ助かったよ。本当に。ほら、準備するから、そっちで待ってて」  男がソファに目をやった。由香里は男の手を握って降った。自然と笑みが零れた。 「待ってる」  男が困ったように笑い、ゆっくりと手をほどいて、台所へ向かった。  由香里はソファに座り、文庫本に手を伸ばした。10ページほど読んだところで男がワインの入ったグラスを2つ持ってきた。 「お待たせ。はい、どうぞ」  由香里は文庫本を置いて、差し出されたグラスを手に取った。 「じゃあ、乾杯」 「乾杯」  グラスが鳴る。ワインを喉へ流し込む。やっとこれで終わった。瞼の裏に溜まっていた涙が溢れて頬を伝った。
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