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血を吐いて動かなくなった由香里の指で息子のスマートフォンを操作する。暗証番号は由香里から聞いていたのですぐに解除出来た。
〈もう疲れました。さようなら〉
メモ帳に打たれた文字を見て、考える。少しシンプルすぎるだろうか。だが、あまりごちゃごちゃ書くのも不自然な気がするので、これでいいと結論付けた。
男は自分のスマートフォンを取り出し、この後警察に伝える内容を頭の中でおさらいした。
この別荘には忘れ物を取りに来た。すると見知らぬ女が死んでいたので警察に連絡した。全く状況がわからなくて混乱している。早く来てくれ。
思わず笑みが零れる。なにも疑わしいことはない。余計なことはなにも言わなくていい。
あとは調べればすぐにわかることだ。由香里が息子、達也の浮気相手で2人で協力して達也の妻を殺害し、由香里が達也に睡眠薬を飲ませて殺してその罪に耐えかねて自殺した。そういう筋書き通りに進むはずだ。
由香里が飲んだ毒も彼女自身が購入したものだ。男は依頼しただけで、それ以上のことは何もしていない。飲む相手は睡眠薬が効かなかった場合の達也だと伝えていたので、まさか自分が飲まされるとは思ってもいなかったはずだ。
馬鹿な女だ。男は自身のグラスに入ったワインを飲んだ。
吹雪が悲鳴のように鳴り響いている。
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