1人が本棚に入れています
本棚に追加
由香里②
テレビの上にかけられている時計に目をやる。達也が出て行って10分が経った。まだ戻ってこないということは死んだのかもしれない。
『久しぶり。結婚おめでとう』
ほほ笑む由香里に達也が、
『ありがとう』と笑った。
『亜里沙もおめでとう。よかったね、結婚出来て』
『ありがとう。本当によかったよ』亜里沙も頬を緩ませた。
3年前に行ったクラス会を兼ねた結婚祝い。企画したのは当時のクラス委員だが、やろうと提案したのは由香里だった。集まったのは半分にも満たなかったが、そんなことはどうでもよかった。しばらく3人でとりとめのない話をしていると、クラス委員だった男がクラスのアイドル的存在だった女を連れてやってきた。
『おめでとう。でも、まさか、お前が江口と結婚するなんてな』
『馴れ初め聞かせてよ』
『式はどこでするんだ?』
あれやこれやとされる質問に達也も亜里沙も戸惑いながらも嬉しそうに答えていた。
心が透明に凍り付いていく。酔いたい気分だったが、この雰囲気のなかでは酒が進まなかった。つまらない、来るんじゃなかった。スマートフォンをいじりながら、年甲斐もなくはしゃぐ同級生たちの声がやたらと耳に響いた。
〈久しぶり、ちょっと暇なら来週の日曜飲みに行かない?〉
去年の夏に達也から届いたメール。いいよ、と返した。
待ち合わせ場所に行くと達也しかいなかった。店に入っても出るまで2人きりだった。2件目に行っても、3件目に行っても、ホテルに入ってもずっと2人きりだった。
最初のコメントを投稿しよう!