達也③

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 叫んだと同時に体が前へと持っていかれた。「何やってんの! 引っ張れって」  耳鳴りなのか吹雪なのかわからない音が響いていた。掌が引き裂けそうなくらいコードが食い込んでいた。亜里沙が床を踏みつけ、転げまわる。今まで聞いたことがない声を上げていたかと思えば、やがて聞こえなくなった。尿と糞が混ざった臭いが鼻をついた。  しばらく2人とも動けなかった。もう2度と起き上がることのない亜里沙を中心にして、ただ茫然としていた。最初に口を開いたのは由香里だった。 「捨ててきて」  聞こえていたが無視した。 「ねえ、捨ててきてよ」  聞こえていないふりをした。なにも考えられない状態になっているふりをした。 「聞こえてんのかよ、捨ててきてよ!」  胸倉を掴まれたみたいな声だった。思わず顔を上げてしまう。由香里は泣いていた。 「ちょっと待ってくれよ」なんとか声を振り絞って答えた。 「早くして。私は掃除しとくから。ねえ、早くしてよ」 「外、吹雪いてきてるぞ」 「今ならまだマシだよ。本格的になる前に早く」 「だから、ちょっと待ってよ」 「行かないなら、私、警察に全部言うから」
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