1人が本棚に入れています
本棚に追加
叫んだと同時に体が前へと持っていかれた。「何やってんの! 引っ張れって」
耳鳴りなのか吹雪なのかわからない音が響いていた。掌が引き裂けそうなくらいコードが食い込んでいた。亜里沙が床を踏みつけ、転げまわる。今まで聞いたことがない声を上げていたかと思えば、やがて聞こえなくなった。尿と糞が混ざった臭いが鼻をついた。
しばらく2人とも動けなかった。もう2度と起き上がることのない亜里沙を中心にして、ただ茫然としていた。最初に口を開いたのは由香里だった。
「捨ててきて」
聞こえていたが無視した。
「ねえ、捨ててきてよ」
聞こえていないふりをした。なにも考えられない状態になっているふりをした。
「聞こえてんのかよ、捨ててきてよ!」
胸倉を掴まれたみたいな声だった。思わず顔を上げてしまう。由香里は泣いていた。
「ちょっと待ってくれよ」なんとか声を振り絞って答えた。
「早くして。私は掃除しとくから。ねえ、早くしてよ」
「外、吹雪いてきてるぞ」
「今ならまだマシだよ。本格的になる前に早く」
「だから、ちょっと待ってよ」
「行かないなら、私、警察に全部言うから」
最初のコメントを投稿しよう!