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「ブレイラ様……」
コレットが心配そうに声を掛けてきました。
ゆっくりと視線をあげて笑みを浮かべる。笑みは失敗したかもしれませんが、これ以上コレットに心配をかけるわけにはいきません。
「私は大丈夫ですよ、だから気にしないでください」
「しかし……」
「平気です。こういった気持ちになることも覚悟の上でハウストと結婚したんですから。あ、でも私がこの話しを聞いたことはハウストには秘密にしてくださいね。きっと気にしてしまいます」
私が悩んでいると知ればハウストはなんらかの手を打とうとしてくれるでしょう。
でも、私はそんな事をして欲しいわけではないのです。
ハウストは魔族の王で、私は魔力無しの普通の人間。それは変えようのない事実なのですから。
「え、三日後から南都に行くんですか? それはまた急な……」
驚きました。
その日の夜、ハウストから聞かされたのは急遽南の領土へ赴かなければならないというものです。
「南都で橋の開通式があるんだ。中央からはフェリクトールが出席することになっていたが、奴には急遽別件で動いてもらうことになってな」
「別件……」
予定を変えてまで宰相フェリクトールを必要とするほどの別件。
引っ掛かりを覚えましたが、ソファに座って寛ぎだしたハウストの為に紅茶を淹れます。同じ部屋で積み木遊びをしているイスラとゼロスにも声を掛けます。
「イスラ、あなたにはミルク入りの紅茶を淹れますね。ゼロスも連れてきてあげてください。あ、先に積み木の片づけをしてからですよ?」
「わかった! ゼロス、もうおわりだ。かたづけだぞ?」
「ぶーっ」
「だめだ。ブレイラがよんでる」
イスラは積み木を手早く片付けると、まだ遊びたがっているゼロスを抱っこして連れてきてくれました。
テーブルに皆の紅茶を置いてゼロスを抱き取ります。
「ありがとうございます。イスラ、焼き菓子もありますからどうぞ」
「ブレイラがつくったのか?」
「はい。マフィンを焼いてみました。ベリーも入っていますよ」
「たべる!」
イスラはソファに座るとさっそくマフィンに手を伸ばしました。温かな紅茶とマフィンの相性は良く、とても満足そうです。
「あぶー」
「あなたはミルクにしましょう。お菓子も少しだけですからね」
「ぶーっ」
「ダメなものはダメです。まだ赤ちゃんではないですか」
ゼロスに言い聞かせると、赤ん坊用のコップから温めたミルクを飲ませていく。
ごくごく飲む姿に目を細め、隣に座るハウストを見上げました。
彼は紅茶を飲みながらも何か思い悩んでいる様子です。おそらくフェリクトールの予定変更と関係あるのでしょう。魔王の片腕ともいわれる宰相の予定を変更しなければならないほどの事、それは私も気になるところです。
「ハウストも召し上がってください」
「ああ、ありがとう」
ハウストはマフィンを一口食べて表情を和らげてくれる。少しでもお役に立てたでしょうか。
「ブレイラ、ゼロスに変わりはないか?」
「はい。相変わらずハイハイは上手ですし、ちゅちゅちゅと指を吸ってますが、よく遊んで、よく食べて、よくお昼寝もします。とても元気ですよ」
「そうか、それは良かった。変わりがないならいいんだ」
頷いてハウストは納得しましたが、その顔をじいっと見つめます。
眉間に皺が一つ、ちっとも良くないではないですか。
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