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「……難しい顔をしていますね。フェリクトール様が予定変更された一件はゼロスに関することではないですか?」
「…………分かってしまうか?」
ハウストが苦笑して言いました。
先日、ゼロスの力が解放されました。覚醒です。
この覚醒によって星のとある場所に生命反応が芽生えたのです。それは三界に激震が走る出来事でした。なぜなら、冥王の目覚めは冥界の目覚めと考えられるからです。もしこれが事実なら世界はいにしえの時代のように四界時代を迎えることになるのです。
それは現代の三界の人々にとって未知の領域。三界の王たちですら例外ではありません。
今、三界から多くの学者、賢者、研究者が新たな冥界について調査していました。フェリクトールはそこに加わることになったのです。
そして、その研究者たちが一番興味を持っているのは冥王ゼロスの存在でした。ゼロスに対して幾つか書簡が届いているようですが、私は一度も目にしたことはありません。
「あなた、ゼロスを守ってくださっているんですよね。ありがとうございます」
一度も届いたことがない書簡。
私が目にする前にハウストが排除してくれているのです。彼は何も言わないけれど、それくらい私にも分かります。
「まだ赤ん坊だ。冥王として働くには、まだ早い」
ハウストはそう言うと私の腕の中のゼロスを見る。
抱いてあげてくださいと渡すと、慣れない手つきながらもしっかりと抱いてくれます。
「あぶー、うー」
ぺたぺた、ゼロスの小さな手がハウストの顔に触れました。
口や鼻や頬に触れられまくり、ハウストはなんともいえない顔になります。
「……不思議なものだな。こうして冥王に顏を触られまくるとは」
「ふふふ、まだ赤ちゃんですからね。いずれ言葉を話すようになれば、あなたを父上と呼ぶ日がきますよ。イスラみたいに」
そう言って私とハウストはイスラを見ました。
それに気付いたイスラはマフィンを頬張りながらも照れ臭そうに目を逸らす。
『ちちうえ』ハウストをそう呼んだ時のことを思い出したのでしょう。あの時もとても恥ずかしそうでした。
イスラもゼロスもそれぞれの世界の王なので魔界の世継ぎではありません。でも、それでもハウストと私の子どもとして魔界の第一子と第二子として扱ってくれている。それは魔界有史前代未聞のことですが、私にとって嬉しいことです。
「ブレイラ」
「なんでしょう」
「せっかくだ。お前も橋の開通式に出席するか?」
「え?」
思わぬ提案に目を丸めました。
驚く私にハウストが眉を上げます。
「……行きたくないのか?」
「行きたいです!!」
拳を握って即答しました。
ハウストが南へ行くのは政務ですが、一緒にと誘ってもらえて嬉しいです。
「出発は急だが南都は初めてだろう? お前も二人も連れていきたい」
「イスラとゼロスもいいんですか?!」
「ああ、置いていく訳にはいかないからな」
「ありがとうございます! 嬉しいです!」
思わぬ展開に気持ちが抑えきれません。
思い出すのはモルカナ国や西都に行った時のこと。あの時もとても楽しかったのです。
「イスラ、ゼロス、みんなで南都へ行けることになりましたよ!」
「それどこだ?」
「あぶぶ?」
「魔界の南にある領地です。南の大公爵様が治める領地ですよ」
南の大公爵。名はリュシアン。
正直、少しだけ苦手な方です。
彼は私が環の指輪を嵌めて魔界の王妃になることをあまり快く思っていません。でも初めて行く南都には興味があります。
「ブレイラとおでかけ?」
「そうです。ハウストとゼロスも一緒です。皆で行きましょうね」
「いく! オレもいく!」
イスラが興奮したように言いました。
手まで挙げて主張する姿に口元が綻びます。
「はい、一緒に行きましょう。ハウスト、ありがとうございます」
「お前たちも行くなら俺も楽しみが増える」
「今から待ち遠しいです。では私もコレットに予定を調整するようお願いします」
ひょんなことから突然決まった南都行き。
どんな領地なのか今から楽しみです。
しかもゼロスにとっては初めての遠出です。しっかり準備をしなければなりませんね。
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