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「ほんとうに美しい都ですね。昼間の都も綺麗でしたが夜の都も素敵です。都の街並みの他にも、夜会の催しも一風変わった演出がされていましたね」
広間の夜会をちらりと見てハウストに笑いかけました。
今まで出席した夜会は慣例を重んじた儀式的なもので、出席する高官や貴族たちも一定以上の身分で構成されていました。しかしリュシアンが主催した夜会は貴族だけでなく無位無官でも名のある方々が多く出席していたのです。儀礼的なのに開放的、不思議な雰囲気の夜会です。
「リュシアンは美意識の高い男だからな。自分が良いと思ったものはなんでも取り入れる」
「そうなのですね。だからでしょうか、今夜の夜会は今まで出席させていただいたものと雰囲気が違います」
「ああ、四大公爵の中では一番革新的な考えた方をする男だ。エンベルトは俗流だと怒っているがな」
「それは想像できてしまいますね」
思わず笑ってしまいました。
エンベルトとリュシアンは真逆の性格なのでしょうね。
「――――何度言ったら分かるんだ。断ると言っているだろう!」
ふと大きな怒鳴り声が聞こえてきました。
声の方を振り向くと、そこには分厚い丸眼鏡が特徴的な壮年の男がいました。
男は神経質そうに目を細め、囲んでいる従者たちにため息をつく。
「君たちもいい加減に諦めたらどうだ」
「そうは言いますが、旦那様はどうしてもドミニク様にお願いしたいと申しておりまして」
どうやら男はドミニクという名のようでした。
いったい何ごとかと見ていると、ハウストが「ドミニクじゃないか」と少し驚いた顔をします。
「ハウスト、あの方とお知り合いでしたか?」
「ああ、今は引退しているが腕のいい金細工師だ。お前にも紹介しよう」
そう言うとハウストは私をドミニクのところへ連れて行ってくれます。
ハウストが近づくとドミニクを囲んでいた従者たちが慌てて最敬礼しました。
「こ、これは魔王様、王妃様!」
「邪魔したか?」
「とんでもございません! 我々はこれで失礼いたします!」
従者たちがそそくさと立ち去っていく。
それを見送ると、やれやれとドミニクはため息をつきます。
「相変わらずのようだな、ドミニク」
「魔王様、お久しぶりでございます。さっきは助かりました」
ドミニクはハウストに深々とお辞儀し、次に私に向き直りました。
「王妃様、初めまして。ドミニクと申します。以前は金細工師をしておりました」
「初めまして、ブレイラと申します」
背筋をピンと伸ばして丁寧にお辞儀しました。
王妃として恥ずかしい姿は見せられません。
「ブレイラ、この男は腕のいい金細工師でな。現役最後の作品もこの世に二つとない物だった」
「もしかして、金の細い鎖と金縁の首飾りですか?」
「それだ。知っていたのか?」
「この前、御披露目の衣装を試着している時に見たんです。とても煌めいた作品で見入ってしまいましたよ」
「お前が宝飾に目を留めるとは珍しい」
「コレットにも言われました」
苦笑して答えるとドミニクに向き直りました。
あの素晴らしい作品を作った方にお会いできるなんて光栄なことです。
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