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「とても素晴らしい作品でした。あまり詳しくないので多く語れませんが、作品の煌めきに感動いたしました」
「その辺に転がっている石を掘っただけの作品だというのに、王妃様に喜んでもらえるなんて光栄なことです」
「え……」
その辺に転がっている石?
あの首飾りの石は控えめなサイズでしたが、巧みな研磨と加工によって石自体が煌めいているような作品でした。金細工師の技術力の高さと良質な原石によって齎される作品だったはず。それはもう値段が付けられないほどの。
それなのに謙遜にしては辛辣な……。
「え、えっと、石が輝いているように見えて……」
「勿体ない御言葉です。加工してキラキラしているだけの石です。光るだけならガラスだって光ります」
「そ、そうですか」
どうやら謙遜ではなく本音のようです。
どうしましょう。予想した反応と違って会話が続けられません。
なんとかしてください御友人なんですよね? ハウストをちらりと見上げました。
目が合ったハウストが苦笑します。
「ブレイラが困っている。もう少し手柔らかに評価できないのか、自分の作品だろう」
「自分の作品だからこそ、自分が正当に評価できなければ職人とはいえませんよ。心からの本音です。金細工師を引退したのも、自分の磨き上げた技術が結局ただの石を加工することにしか使えないのが馬鹿馬鹿しくなったからです」
「なるほど、宝石に価値はないと」
「はい。どんな価値ある宝石も、突き詰めればただの石です」
ドミニクは頑固そうな口調でハウストに言うと、「王妃様もあまり惑わされませんように」と忠告までしてくれました。
どうしましょう。言いたいことは分からないではないですが極論過ぎて付いていけません。世間で宝石に価値が見出される限り、それはやはり特別な石なのです。
しかしドミニクにとって自分の価値観こそが絶対なのでしょうね、熱い語りは続いてしまう。
「私が彫りたい石はこの世に二つとない石です。たとえば王妃様の指に嵌められた、その指輪」
「え、私の?」
思わず右手で左手を握りしめました。
元々宝飾を身に着けるのは苦手なので、環の指輪を頂いてから指を飾るのはこれだけです。
「王妃様!」
「は、はいっ」
改めて呼ばれてびくりっと肩が跳ねてしまいます。
でもドミニクの勢いは止まりません。
「無礼は承知です! 見せて頂いても宜しいでしょうか!」
「これを、ですか?」
「はい、これこそが世界に二つとない石! 価値ある石とはこの事を言うのです! どうか少しだけ!!」
困りました。
この指輪はハウストが私に贈ってくれた特別な指輪で、見せびらかしたい物ではないのです。これは宝飾として身に着けているというより御守りとして身に着けているという感覚ですから。
「ハウスト、いいですか?」
「いいぞ」
ハウストが私の左手を取り、そのままドミニクの前に差し出します。
ドミニクは決して私の手や指輪に触れることはしませんでしたが感激に瞳を潤ませました。
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