Episode2・魔界の玉座のかたわらに~家族で初めての洞窟探検~

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「ドミニク様、突然のお願いで不躾かと思いますが、昨夜お話ししていた祈り石について詳しく聞かせてください」 「まさか王妃様に興味を持っていただけるとは光栄の至りです。やはり引退して研究に没頭して正解だった……! まず祈り石の伝承についてですが、これはいにしえの時代に遡ります。所有者の祈りを宿す石といわれ、石自体に魔石のような力があります」 「魔石とは違うのですか?」  魔石とは石自体に魔力が籠もった石のことです。  その魔力に強弱はあるものの強い魔石となると制御が難しく、特別な魔石は魔王の宝物庫で厳重に管理されているほどです。  でも祈り石とはいったいどう違うのか……。 「祈り石を魔石のような禍々しいものと一緒にしてはいけません。祈り石は所有者の祈りによって力を宿す奇跡の石です。魔石のように無差別なものではありません」 「いまいちピンときませんが、それって凄いことなんですよね?」 「所有者の祈り次第ですが宿す力に際限はありません。魔力の才覚に左右されるものではないのです。だから世界に二つとない石なんです」 「魔力の有無は関係ないのですね」 「そうです。しかし今の時代、言い伝えが残っているだけで実物を見た者はいません。ここから東北の位置にある山岳の鍾乳洞にあると言われていますが、古い時代の魔王によって仕掛けられた術で鍾乳洞の奥へ行くことが難しいんですよ。禁域として立ち入り禁止の場所になっています」 「古い時代の魔王……」  なんとなくハウストを見つめます。  視線に気づいた彼は俺は関係ないぞと首を横に振りました。 「ブレイラ、俺が仕掛けた訳じゃない」 「分かっていますよ。でも古い時代の魔王の術とはどういうものなのです? とても恐ろしいものなんですか?」  問いかけた私にハウストはなんとも複雑な顔をしました。 「……いや、別段危険な術というわけじゃない。鍾乳洞の中で魔力を使うと外に強制送還されるという単純なものだ」 「え、なんですかそれ」  予想外の術内容に驚きました。  なんだか思っていたのと違います。もっと重大な問題が発生するものだとばかり。 「俺に聞くな。だが、だからこそ今まで放置されてきたんだ。歴代魔王もわざわざ術を解除する必要性にも迫られなかった。それほど危険な術ではないからな」 「あなたもですか?」 「解除することはできるが、すぐには無理だぞ? 古くとも魔王が施したものだ。術は単純でも解除にはそれなりの時間がかかる」 「なるほど、それもあって放置されているわけですね」 「そうだ。鍾乳洞の奥に祈り石があるという伝承はあるが、あくまで伝承だ。見たことがないから確信がない。わざわざ解除する理由もないだろう。なかには禁域でも強行する者がいるが攻略が無謀と悟れば強制送還で帰ってくる」  鍾乳洞は迷路のように複雑で攻略の難易度は高いようです。魔力を使えないという縛りが更に攻略を難しくしますが、同時に冒険者たちを救っているようでもありました。 「……でも、そこに祈り石がある可能性が高いんですよね?」  世界に二つとない石が。  魔力を持たない私でも力を宿せる石。欲しいです。  膝に抱っこしているゼロスの小さな体をぎゅっと抱きしめる。  自分がどれだけ無謀なことを考えているか分かっています。でも。 「ハウスト、あの、私」 「言うな。嫌な予感がする」  言葉にする前に遮られてしまいました。  彼はなんとも言えない顔で私を見ています。 「……最後まで言わせてください」 「言わなくてもだいたい分かる。鍾乳洞に行きたいとか言うんだろう。何をしに行くつもりだ」  ハウストが呆れた顔で私を見ています。  分かっています。自分がどれだけ馬鹿なことを言っているか、どれだけ無謀か。でも祈り石が欲しいです。祈り石の指輪をハウストに贈りたい。我儘は承知しています。でも、どうしても……。
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