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「祈り石が、気になってしまって……」
「伝承だ」
「確かめなければ分かりません」
食らいつく私にハウストが眉間に皺を刻みます。
「どうしてそんな物にこだわるんだ。石に興味があるなら俺の宝物庫から魔石でも宝石でも何でもやるから、祈り石は諦めろ」
「祈り石でないとダメです!」
拳を作って言い返した私にハウストが押し黙りました。
微妙な沈黙が落ちましたが、真ん中で私とハウストを交互に見ていたイスラが口を開く。
「オレもいく! ブレイラとみにいく!」
「えっ、イスラまで……。魔力が使えない場所なんですよ?」
「やめておけ、イスラ。お前にはまだ厳しい縛りだ」
難色を示した私とハウストにイスラがムッとしてしまう。
「オレ、つよいのに」
「それは分かっていますが鍾乳洞にあなたを連れて行くなんて……」
とても行きたい場所ですがイスラまで巻き込んでしまう訳にはいきません。もしイスラの身に何かあったらと想像するだけで恐ろしい。
イスラが絡むなら話しは別、それなら私が諦めた方がマシです。
でも正面に座るドミニクが満面笑顔で提案してくれる。
「よろしければ案内いたしましょうか? ここに鍾乳洞の地図がございます」
そう言ってドミニクが古い地図をテーブルに広げました。
色褪せた地図は文献といっても差し支えないほど古いものです。
「え、これが鍾乳洞の?」
「はい。古い地図ですが本物であることは確認できています。ここが鍾乳洞の入口で、祈り石があると言われているのは丁度この辺りです」
「ここに祈り石が……」
ごくり、息を飲む。せっかく諦めようと思ったのに目の前に差し出された祈り石の在処に心が揺れる。
私の隣ではイスラが「たからさがしみたいだ!」と瞳を輝かせています。どうやら好奇心が刺激されまくっているようです。
しかしハウストは目を据わらせる。
「……ドミニク、なんのつもりだ」
「敬愛する王妃様の願いを叶えたく」
「白々しい事を言うな。お前が行きたいだけだろう」
ハウストが低い声で言うと、たしかに否定しませんが……とドミニクが目を逸らす。
でもドミニクも譲れないとばかりにハウストを見返しました。
「べ、別に行きたい訳ではありません。この手で祈り石を加工してみたいだけです」
「ならばブレイラを巻き込むな」
「魔界の民草の一人として王妃様の願いを叶えたく」
「なにが民草だ」
ぎろりとハウストが睨むとドミニクが嘆くように天井を仰ぎました。
「ああっ、王妃様が祈り石に興味を持ってくださるなど滅多にない奇跡だというのに、この魔王ときたらっ。だいたい考えてみてくれ、鍾乳洞に入ったとしても魔力を使えば強制送還だ。危なくなれば魔力を使って外に出ればいい! そう考えるとちょっとした鍾乳洞探検、いやハイキングみたいなものだ!」
ハイキング。ちょっと違うような気もしますがドミニクが鍾乳洞探検の安全性を力説しました。
でもたしかに納得できないものではありません。ドミニクの言う通り危なくなれば引き返せばいいのです。
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