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「あの、ハウスト、私……」
ハウストをじっと見つめる。
目が合ったハウストは眉間に皺を刻んで顎を引きます。
「……そんなに行きたいのか?」
「……はい。行きたいです」
我儘は承知です。自己満足というのも分かっています。
でもどうしても行きたいです。
本当なら一人でこっそり行くのが良いのでしょう。ハウストに贈る指輪の石を取りに行くのですから。きっと以前ならそうしていました。
しかし今はそれがどれだけハウストを心配させ、周囲の方々に迷惑をかけるか知っています。
私だって、大切なイスラやゼロスやハウストがどんな理由があっても勝手にどこかへ行ったら怒ります。とても心配します。そしてそれはハウストも一緒なのですよね。
だからどうして行きたいかは秘密にしても、行くことに対してはハウストの許しが欲しいです。我儘をお願いしているのに勝手なことまで出来ません。
「お願いします、ハウスト。行くことを許してください」
「駄目だと言えば諦めてくれるか?」
「……あなたに心配をかけたい訳ではないので、ハウストが駄目だと言うなら……諦めます」
視線が僅かに落ちました。
諦めるのは残念ですがハウストの許しがないなら仕方ありません。許したくないと思うハウストの気持ちも分かるからです。
「……分かった。だが条件が一つ、俺も同行させることだ」
「えっ、い、いいんですか?!」
勢いよく聞き返しました。
信じられません。反対されるとばかり思っていました。
驚く私にハウストが苦笑します。
「いいも何も行きたいなら仕方ない。ここで駄目だと言うのは簡単だが、拗ねられても困るからな」
「拗ねません! でも、ありがとうございますっ」
顔が喜びに綻んでいく。
まさか許してもらえるなんて思ってもいませんでした。
ハウストはそんな私に目を細めて立ち上がる。
「そうと決まれば支度を急がせる。鍾乳洞は魔力が使えない場所だ、それなりの準備が必要になる」
ハウストは私にここで待つように言うと工房を出て行きました。
工房の外で待っている侍従に鍾乳洞へ入る準備をさせにいくのです。
残された私はお茶を一口飲むと、改めてドミニクを見つめました。
「ドミニク様、ありがとうございました。……一つお願いがございます」
「ほう、お願いですか。それは王妃様がどうしても祈り石を手に入れたい理由に関係があるものですか?」
直球で聞かれてしまいました。
驚きながらも苦笑してしまう。
「やはりバレていましたか」
「もちろんです。私には願ってもない嬉しい事でしたからね」
「ふふ、それならお願いも口にしやすいというもの。あなたにお願いしたいことは一つです」
私はドミニクをまっすぐに見つめ、どうしても頼みたいお願い事を口にしたのでした。
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