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「イスラ、大丈夫ですか?」
これってイスラがゼロスを背負って崖を登るということですよね。
心配で落ち着かない私にイスラが胸を張ります。
「オレ、じょうずにのぼれるぞ」
「だそうだ。イスラならゼロスくらい問題ない」
二人が当然のように言いました。
そして私が困惑している間にも崖登りの準備を進めていきます。
でもハウストが自分とイスラの荷物を両肩に掛けたのを見てぎょっとする。
「あなたが荷物まで持つんですか?!」
「お前と荷物くらい大したことはない」
「駄目ですっ。そこまでしてもらう訳にはいきません!」
私は慌ててハウストから二つの荷物を奪いました。
荷物がずっしり重い。こんな物を持ったまま私も一緒に運ぼうとしていたなんて。
「せめて荷物は私が背負います。あなたにばかり持たせるなんて嫌です」
「おい、無理をするな。結構重いぞ?」
「あなたとイスラは持っていたじゃないですか。だから大丈夫です」
私は二つ分の荷物を背負いました。
よいしょっ、と肩に背負うとずしりっと沈み込むような重み。
思わず呻いてしまいそうになりましたが、よいしょっともう一度背負い直しました。
気を抜くと足元がふらついてしまいそうですが、大丈夫、私だってちゃんと背負えます。
そんな私にハウストは苦笑し、「早く来い」と背中を向けられました。
ここにしがみ付けというのです。
「大丈夫か? 紐が必要なら」
「平気ですっ」
遮って即答しました。
やっぱり舐めていますね。たしかに崖登りは出来ないかもしれませんが背中にしがみ付くだけなら大丈夫です。
「では、よろしくお願いします」
私は荷物を背負ってハウストの背中に乗りかかり、ぎゅっとしがみ付きました。おんぶです。
ハウストは危なげなく立ち上がり、さっそくとばかりに崖をよじ登っていく。
どんな凹凸も見逃さず、手や足の置き場を瞬時に選んでいる。
それにしても……。
しがみ付きながらハウストの厚くて大きな背中や肩、筋骨隆々の強靭な肉体に驚きます。
彼の体は知っていますが魔族と人間はこんなに違うのでしょうか。いいえ、そうではありませんね。魔族の方でも鍛えていない方はひょろひょろしています。
「ハウスト、重くありませんか?」
「ああ、もう少し太ってもいいくらいだ」
「太りません! でも少し体は鍛えた方がいいかもしれませんよね。……私、これでも体力はある方だと思っていたんです」
ハウストやイスラが規格外だと分かっていますが、それでもなんだか自分が情けないです。
「山育ちだからか?」
「はい。崖登りや木登りだってしたことあるんですよ?」
「それは興味深いな。ぜひ見てみたいものだ」
「……バカにしてます?」
「本気だ」
「では、また機会があれば披露しますね」
苦笑して答えます。
披露する前に森で練習しておきましょう。以前は出来たのに出来なくなっていると困ります。
「あなた、凄いですね」
私と荷物を軽々と背負って力強く登っていく。腕や足を動かすたびに筋肉が撓って躍動しているのが分かります。見事な体躯にため息をついてしまう。
「惚れ直してくれたか?」
「ふふ、バカなことを」
私は小さく笑って、しがみ付いている腕にさり気なくぎゅっと力を籠める。
抱き着いた私にハウストの口元が綻んだのが分かります。
こうしてハウストは私を背中に乗せたまま崖を登り、そのすぐ下にはイスラがいました。
ゼロスを背負ったイスラは、ハウストが選ぶ足置き場をなぞるように登っています。
私はハウストにしがみ付いたままイスラに呼びかけてみる。
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