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「イスラ、大丈夫ですか?!」
「だいじょうぶ!」
すぐに帰ってきた返事に安心します。
その声も力強くて疲労を感じさせません。むしろ楽しそうにすら聞こえるのですから驚きです。
さあイスラの次はゼロスです。
「ゼロスはいい子にしていますか?!」
「あぶぶー!」
ゼロスに呼びかけると同じく元気な返事が返ってきました。
良かった。ゼロスも元気そうです。
高所にも暗闇にも怖がっている様子はありません。
やはり勇者と冥王とは凄いのですね。
こうして無事に崖を登り切りました。
崖下を見ると地面が見えません。ただ闇の空間が広がるばかりでとても高い崖だったのが分かります。
「ハウスト、ありがとうございます。大丈夫でしたか?」
ハウストの背中から降りると彼の肩や腕にそっと触れます。
心配する私に彼が優しく笑んでくれる。
「大丈夫だ。お前もよく頑張ったな」
「もちろんです。せめて荷物くらい。ハウスト」
不意に彼を呼び、触れていた腕を軽く引っ張りました。
少しだけ彼が屈んだところを狙ってすかさず頬に口付ける。
「ブレイラっ」突然のそれにハウストが目を丸めました。
自分でも頬が熱くなったのが分かります。でもイスラとゼロスが登ってくる前にどうしてもしたくなったのです。
「あ、イスラ達が上がってきました! 二人ともこっちですよ!」
誤魔化すように言ってするりとハウストから離れます。
ハウストの腕が追ってきましたが掴まる前にイスラとゼロスに駆け寄りました。
「ブレイラー!」
「あぶー!」
イスラがゼロスをおんぶしたまま駆け寄ってきます。
それを抱きとめ、いい子いい子と二人の頭を撫でてあげました。
「二人ともよく頑張りましたね」
「オレ、かっこよかった?」
「はい。とてもかっこよかったですよ。ゼロスをありがとうございます」
イスラのおんぶ紐を解いてゼロスを受け取りました。
抱っこするとゼロスが嬉しそうに手を伸ばしてきます。
「あーあー!」
「ふふ、ゼロスも上手におんぶされていましたね」
これで四人全員揃いました。
先を進もうとハウストを振り返りましたが、彼の様子に首を傾げる。彼はランタンで地面を照らしてなにやら気難しい顔をしているのです。
「ハウスト、どうしました?」
「……いやなんでもない。先を急ぐぞ。この先に休憩できる場所があるはずだ」
彼はそう言うと先へ歩きだしました。
気になりつつも私もイスラとゼロスをつれて後に続きます。
しばらく歩くと前方に淡い月光が差す空間が見えました。
暗闇の地下洞窟に突如として現われた光の空間。私は驚きに目を丸める。
「すごいっ。この鍾乳洞にこんな場所があったなんて!」
「ブレイラ、はやくいくぞ!」
興奮したイスラが私の手を引いて月光の空間に走りだします。
近づいてみると、そこは鍾乳洞の天井がぽっかりと空いた場所でした。
そう、地上から見れば私たちがいる場所は山に突如として現れた巨大な穴の底ということ。
でも穴の底にいる私たちから見れば、閉鎖された地下空間に突如現れた空。
「今夜は満月だったんですね」
地下空間からぽっかり空いた夜空を見上げました。
丸く切り取られた夜空に大きな満月が浮いています。鍾乳洞に入った時はまだ陽が出ていましたがすでに夜の帳は降りていたようです。
「今夜はここで休もう。この明るさなら視界も確保できる」
ハウストはそう言うと荷物を降ろして野営の準備を始めます。
イスラもそれを手伝い、私は持ってきていた保存食材で夕食の支度です。夕食といっても簡単な物しか用意できないのが残念ですが仕方ありません。
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