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「イスラ、手伝ってくれてありがとうございます。今からゼロスのミルクを作るので、出来上がるまでゼロスと遊んでてあげてください」
「わかった。ゼロス、こっちだぞ」
「あーあー!」
イスラとゼロスが月明かりの下で転がるようにして一緒に遊んでいます。
イスラがゼロスをたかいたかいしたり、ハイハイでどこかへ行ってしまいそうになるゼロスを慌てて引き止めたり、とても仲良しですね。
二人の様子を横目で見ながら手早く支度を終わらせていきました。
「できましたよー。こっちに来てください」
皆を焚火の周りに呼びました。
そこに並べたのは保存用のパン、燻製肉、スープです。いつもの食事量に比べると少ないですが、イスラがゼロスを抱っこして嬉しそうに駆け寄ってきました。
「おなかすいた!」
「あぶ!」
「お待たせしました。ああ、ゼロスはミルクですよ? このパンはゼロスが食べるにはちょっと硬いんです」
「ぶーっ」
「ぶー、ではありません」
私は苦笑してゼロスを抱きとりました。
四人で焚火を囲んでさっそく夕食の時間です。
「いただきます!」
「召し上がれ」
イスラがさっそくとばかりにパンを頬張りました。
燻製肉ももぐもぐ食べて、いつもより勢いよく食事が進んでいきます。
鍾乳洞に入ってからずっと歩き続け、途中には危険な場所も崖登りもあったのです。とてもお腹が空いていたのでしょう。
「イスラ、スープはお替りもありますからね」
「おかわり!」
「はい、どうぞ。ハウスト、あなたもどうぞ」
「ありがとう」
ハウストも受け取ったスープを美味しそうに飲んでくれます。
私も自分の食事を進めながら抱っこしているゼロスに目を丸めました。見ればゼロスのミルクが空になっているのです。
「もう飲んでしまいましたか。とてもお腹が空いていたんですね」
「あーうー」
「もう終わりです。ミルクはありませんよ?」
「ぶーっ」
「怒ってもないものはないのです」
「ぶーっ」
「……仕方ないですね。あなたが食べられそうなものは。……あ、これなら丁度いいかもしれません」
私は自分の皿から燻製肉を取りました。
もちろんゼロスの小さな歯では噛み切って食べることはできませんが、燻製肉ならしゃぶったり吸ったりするには丁度いいはずです。
「これ吸ってみます?」
「あぶ!」
ゼロスは燻製肉を小さな手で握ると、初めてのそれを珍しそうに見ます。
そして小さな口であむあむしました。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅう、ちゅう」
「どうですか、おいしいですか?」
「ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ」
燻製肉をちゅーちゅーしゃぶっています。
難しい顔をしてしゃぶっているので味はよく分かっていないようですが、とりあえず食欲は満たせそうで良かったです。
「ブレイラ、これを食べろ」
ハウストが自分の燻製肉を半分千切ってくれました。
でも私は首を横に振る。
「それはハウストの分です」
「お前はゼロスにあげただろう」
「大丈夫、私はあまりお腹が空いてないんです。でもあなたは私をおぶって崖を登ったり、重たい荷物を運んだりしてくれているのですから、しっかり食べてください」
「そんなのは関係ない。お前も食べろ」
「しかし……」
「強情だな。ブレイラ」
「なんで、――――むぐっ」
口を開いた瞬間を狙って燻製肉の欠片が突っ込まれました。
こうされたらさすがに食べない訳にはいきません。
あなた……と恨めしげに睨みながらもぐもぐしますが、ハウストは面白そうに笑っています。
「うまかったか?」
「……まったく、あなたという人は。……でも美味しかったですよ。ありがとうございます」
呆れながらも礼を言うとハウストは満足げに目を細めました。
こうして食事を進め、スープの鍋は空っぽになりました。
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