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「どうしたの? あなたが来るなんて久しぶりね」
「父上からおじ様へのおつかいを頼まれていてね。それに……」
「どうしたの?」
「執事から君が婚約破棄したと聞いてね」
「──っ!」
ソフィは持っていた本を床に落としてしまいそうなほど驚いた。
「おじ様に聞いたよ、エミール子爵令息から申し入れがあったんだって?」
「ええ……」
ソフィは困った表情を見せないようにしながらも、内心の焦りからスカートの裾をぎゅっと握り締める。
ジルは幼馴染であるソフィのそのわずかな仕草も見逃さなかった。
「何かあったのかい?」
ソフィは焦っている様子を気取られまいと、手元にあった本を閉じて、窓からバラが綺麗に咲いている庭園を眺めながら告げる。
「私がエミール様にふさわしい存在でなかったのよ」
窓の外を眺めているため、ジルにはソフィの顔は見えなかった。
けれども、その少し震えた声色からソフィが悲しみ、今にも泣きそうになっていることはジルにはもう伝わっていた。
ジルはソフィの向かいにある椅子に腰かけると、ソフィの顔を覗き込むようにして言う。
「ソフィ」
「……なに?」
覗き込むジルの気配に気づき、ソフィは顔をジルのほうに向ける。
太陽の光に照らされた美しいジルの金髪が揺れる。
そして、その艶めいた金髪と共に、優しいジルの微笑みがソフィを捕らえて離さなかった。
「今度、お茶会を開かないか?」
「え?」
ジルの提案にソフィはプラチナのような長い髪を揺らしながら、首をかしげる。
「大勢でやるお茶会じゃない。僕と二人きりの優雅で静かなお茶会だよ」
ジルはおもむろに立ち上がると、ソフィの元に近づき跪いた。
そのままソフィの手をとると、ゆっくりと自らの唇をもっていき、口づけをする。
「──っ!」
婚約者同士でありながらも、エミールとそういった甘い経験がなかったソフィは顔を真っ赤にする。
「君の好きなダージリンティーを飲みながら、たくさん本の話をしよう。いかがでしょうか、姫」
今まで経験したことのない扱いを受けて、ドギマギするソフィ。
ジルの綺麗なサファイアブルーの目がソフィを捕らえて離さない。
恥ずかしさのあまり、目をぎゅっとつぶってしまうソフィは、小さな声で「はい」と返事をするのがやっとだった。
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