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シャルロッテはエルヴィンがいない間もマナーの練習を続けている。
徐々にうまくできるようになり、貴族令嬢がおおよそ5歳くらいまでに学ぶであろうテーブルマナーや挨拶のマナーなどは完璧に近いレベルに達した。
「シャルロッテ様、お疲れ様でございます」
「ラウラ! みて! 今日は先生にテーブルマナーで合格点をいただいたのよ!」
「それは嬉しいですね! 素敵なレディに近づいております!」
「ええ、もっとがんばらないと! あ、そうだエルヴィン様にこのことを……」
そこまで言ってエルヴィンが家にいないことに気づく。
顔色が曇っていくシャルロッテに対して、ラウラはそっと近づき、背中を撫でる。
「もうすぐですよ、きっと。帰ってきたらたくさんお話できます」
「そうね……」
(大丈夫、一人は慣れているもの。エルヴィン様が帰ってきたときの嬉しさが倍になるわ)
シャルロッテはそう自分に言い聞かせて自室へと戻る。
ドアを閉めて自室のベッドに座ると、そのままぽふっと仰向けに寝る。
シャルロッテの頭の中ではエルヴィンの優しい微笑みや頬に触れられた時の感触、抱きしめられたぬくもりが思い出された。
(どうして、こんなに寂しいの?)
自分自身をぎゅっと抱きしめてみても、エルヴィンの腕の中のような満足感はない。
(エルヴィン様の声を聞きたい。お話したい。もう一度抱きしめてもらいたい……)
シャルロッテは形式上の妻ではなく、もう一人の女性としてエルヴィンを欲していた。
寂しさで涙が頬を伝う。
「お仕事なんてなければいいのに……」
思わず口をついて出てしまった言葉にシャルロッテは驚く。
(私、なんてこと……一生懸命お仕事なさっているのに)
シャルロッテはベッドの上で天井を見上げながら何度も考える。
でも、何度考えても「エルヴィンに会いたい」ということしか出なかった。
(経験したことないこの変な感情はなんなのかしら)
恋をしたことがない彼女が、これが恋であることに気づくのはもう少しあと──
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