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「ただ、ヴェーデル伯爵家はアドルフ伯爵付きの執事に財産を盗難されていますね?」
「そ、そうなんです! 私たちは被害者なんです!!」
「安心してください、その盗難した執事も捕らえて今は獄の中にいます」
「よかった、じゃあ、盗まれた財産は戻って……」
「こないですよ」
「え?」
ヴェーデル伯爵の希望満ちた目と声は、エルヴィンによる冷たい一言で打ち消される。
「なぜですか! 私たちは被害者なのですよ?!」
「被害者、そのように思えますが、本当の被害者はあなたたちではなく領民のみなさんですよ」
「──っ!」
「あの財産は全て、不当に領民に納めさせた税。つまり国が認めていない徴収金です。これはあなたたちのものじゃない、ここの領民のものですよ」
ヴェーデル伯爵はそこまで調べられているとは思わず、もはや言葉を返せなくなっていた。
「さあ、最後に。エミーリア伯爵令嬢」
「──っ! はい……」
「あなたには個人的な『借り』がございます。わかっておいでですよね? 我が妻への冒涜の数々」
「ひぃっ! 許してください!! 私は父や母のように罪はおかしておりません! どうか! どうか!!」
「なっ! お前っ! 父親を見捨てるのか?!」
その言葉を聞き、エルヴィンはそっとシャルロッテの腕を引いて自分の隣に立たせる。
目の前には膝をつき、涙を浮かべるエミーリアがいた。
「すべて調べはついていますよ。偽の招待状でシャルロッテを呼び寄せ、まわりを扇動して侮辱の数々をおこなった。それを高みの見物で楽しんでいたそうですね」
(エミーリア様……見ていたのね)
「あれは、そう! アドルフ伯爵令嬢が言い出したのよ! 私は見てただけ!」
「おかしいですね、彼女はあなたから金貨を受け取ってやったと白状していますよ」
「なっ!」
「このことについて行政的には何も裁かれません。しかし、私は決してあなたを許さない。妻を傷つけて貶めた罪、償っていただきます」
観念したエミーリアは涙でぐちゃぐちゃの顔をあげ、姉であるシャルロッテを見る。
「シャルロッテ姉さま……申し訳ございませんでした」
「エミーリア……」
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